Jean-Claude LAPALU
美味しいワインを造る醸造家は沢山いる。
でも人間的に“この人なら”と心から信頼できる人は少ない。
まず人間性がずば抜けて優れている。
こんな人が造るワインは、いつ、ごこで、どんな時でも、誰と一緒でも、安心して飲めるし、心から安らぐワインなのである。この安心感、安定感、心地よさは、何ものにも代えがたいものがある。
ラパリュのワインを飲むということは、心から信頼している親友に逢って話すようなものだ。
この感覚は、実に大切なことである。
ジャンクロードが何故、こんな素晴らしいワインを造ることができるか?
それは、下記のような人間だからである。
*誠実で、謙虚であること。
*並外れた体力があること。
*ものごとを追求する探求心が強く、絶対にあきらめない強さがある。
*常に人の和を大切にすることを考えている。
勿論、ジャンクロードも人の子、間違いもするし、完璧ではない。
でも、上記の人間性を大きく外れたことを見たことがない。
ジャンクロードは、ここボジョレに生まれて、小さい時からワイン造りをしたかった。
でも、それがかなう環境ではなかったので、パリにでて消防士をめざした。
ここで、超人的に鍛えた体力を備えることになった。
パリ消防士には、超エリート集団が存在していて、体力、精神力がずば抜けた精鋭ばかりを集めた特殊部隊がある。
ジャンクロードはその特殊部隊に選別されて、そこで活躍したメンバーの一人である。
この体力が、精神力が、その後のワイン造りに大きく影響することになった。
ジャンクロードは、子供の頃からの夢だった、“ワイン造り手”になることを実現させるためにボジョレに戻り、畑を借りてワイン造りを開始した。
このワイン造りの道を全く知らなかったジャンクロードは、ただ必死に体力の限りを尽くして畑仕事に打ち込んだ。
朝から日が落ちるまで畑で生活していた。
勿論、自然な栽培を実施していた。
造りも全くのゼロからの出発だった。
ジャンクロードは、自分自身ですべて実施しながら失敗も積み重ねながら自然な造りを自得していった。
ボジョレには、マルセル・ラピエールをはじめ名だたる大御所の自然派ワインの造り手達がいたけど、以外にも人見知りのジャンクロードには接点がなかった。
ずっと遅れて、マルセルやジャン・ホワールなどと巡り合い交流がはじまり、色んなことを学んでいったのである。
こんな訳もあって、ジャンクロードの醸すワインは、典型的な自然派のスタイルとは違った酒質(ワイン質)備えている。
ボジョレの醸造家が絶対に造ろうとしないスタイルのワインを次々と造り上げて、業界人を驚かせたのである。
ゼロから始めたジャンクロードには、伝統からくる壁がなく、素直な願望をもってガメ品種のあらゆる側面を表現するワインを発表していった。
例えば、ガメ品種を遅摘みにして超完熟の状態で醸造する、遅摘み赤ワインはまるでバニュルスを思わせるワインだった。
また、限りなく“水”に近い口当たりのワイン“Eau Forte”オーフォルトなども驚愕のスタイルだった。
ガメ品種で、誰も造ったことがない造りを挑戦できたのは、真っすぐな旺盛な探求心と屈強な体力をもって畑仕事を自分の手で入念に完璧にこなしていたからである。
ジャンクロードは、自分の畑を数メートル歩くごとに変化する土壌の状態を知り尽くしている。
この区画で、この部分からは、今年はこんな葡萄ができる、とすべて理由づけられる。
何か、醸造上で失敗があった時は、あの時の自分の栽培上の対応が悪かったんだ、とすべて分析できるほどまで畑と農作業とその後の醸造の関係を研究し続けてきたのである。
こんな事を、謙虚なジャンクロードは、まともに話すことはない。
私も30年間の付き合いの中で、部分的に聞いた話を結びつけて、“なるほど、そういうことだったのか”と理解するようになったのである。
畑仕事を完璧こなしているジャンクロードの葡萄は、ボジョレ中で最も早く熟すので、収穫開始日はボジョレでは誰よりも早い。
今年私とヴィクトールは、9月12日にジャンクロードの蔵に行った時は、多くの醸造家が収穫をはじめたばかりだったけど、当然のごとくにジャンクロードの収穫はすでに終わっていた。
これは想定していたとおりだったので、別に驚かなかった。
私は、この蔵で、プレス機にかけて“Paradisパラディ”と呼ばれる今年の初絞りのプレス液をテースティングするのが最高の楽しみにしている。予想通りにすでにプレスを開始していたのだった。
垂直式の大型プレス機の横に陣取って、ジャンクロードと話しながらこのパラディを飲むことができることに、最高の幸せを感じる。
今年の猛暑と極端な乾燥の中でも、ジャンクロードの畑からは、キッチリ酸が備わった葡萄が収穫できた。
長年の自然栽培で、葡萄木の根っ子が地中深く伸びていて、必要な水分を確保できているのが分る。
それでも、ジャンクロードは云う、『区画によっては強烈な西日の太陽によって、水分が飛んで干し葡萄のようになっている区画もあり、23年ミレジムは区画の場所によって大きな違いが出るだろう』
23年は最終的には、いいミレジムに入るだろうが、区画別にバラつきがでるだろう。
最終的なアッサンブラージが重要な要素となるミレジムになるだろう。
少なくとも、私が試飲したパラディ・ワインは素晴らしいバランスだった。
ラパリュ・ボジョレ・ヌーヴォーは?
8月末に収穫して、勿論、セミ・マセラッション・カルボヌック醸造だった。
マセラッション‑(カモシ)期間は8日間で、その間ルモンタージもピジャージも一切やらなかったとのこと。
触ると一挙に抽出して濃縮し過ぎる可能性があったのだろう。
例年のごとく、ラパリュ・ヌーヴォーは、程々に濃縮感もあり、ミネラル感のしっかりしたタイプである。
つまり解禁日には、何か食べながらでも美味しく飲めるし、数か月おいて飲んでも美味しく、熟成にも耐えられるスタイルになっている。
やっぱり、ガメ品種の匠のヌーヴォーは別格だ。
ラパリュ・ヌーヴォーも絶対に外せませんよ!
―――
ジャンクロードの所には、いつも若手の醸造家を目指す人達が手伝いにやってきている。
ジャンクロードの誠実な人柄と謙虚さで若者達に気さくに話しかけて、指導してくれるからだろう。
皆、親戚のお兄さん、いや叔父さんのような感覚なのだろう。
すでに多くの新人醸造家が、ここから旅立っていった。
今はジャンクロードの姪であるマリー・エリーズちゃんが正式に入社して働いていた。
男性に交じって力仕事もものおじせずにしっかりこなしていた。
流石にジャンクロードのDNAが混じっているという感じ。
近隣の栽培家からも信頼されているジャンクロードに、自分の栽培した葡萄で醸造してほしいいという依頼が急増している。
ジャンクロードは可能な限り、気持ちよく引き受けて協力することにしている。
他の地方からも葡萄を持ち込む人もいる。
今年は、何とシラー品種が持ち込まれ、ガメ品種とアッサンブラージされる新ワインも誕生するようだ。
ジャンクロードが醸すピノ・ノワールも興味深い。
そして、アンフォラで8か月もマセラッションする新ワインも挑戦している。
このクリーンな蔵で、新たな挑戦が行われている。まだまだ進化中の匠のワインが楽しみだ!