12年における自然派ワインの広がりは実に大きいものだった。もう自然派ワインという範疇を超えて一つのワインのスタイルとして認知されてきたと云った方がよい。

つい最近までは自然派ワイン専門ビストロやレストランなど狭い世界で限られた人達の中でしか飲まれなかった時代だった。
そして数年前からミッシェラン三ツ星レストランや3年連続世界第一位レストランになったデンマークのNOMAなど、テースティング能力があり視野の広いソムリエがいる一流店が自然派ワインを扱うようになっていた。

12年はその枠がさらに拡大して、“品質重視”をポリシーにおくビストロやレストランが率先して自然派を扱い出した。
それを期に、今まで無視し続けていたワイン雑誌が一斉に自然派ワインを取り上げて称賛しだした。ワイン評論家も自然派ワインを高得点で評価しだした。
自然派ワイン(VIN NATURE)と云う言葉を使わずテロワール・ワインとしての“造り”の違いを評価している。

自然派ワインがフランスから世界へ輸出が拡大 12年は蔵元から世界に向けての輸出も大きな広がりを見せた。北欧諸国・ノルウェー・スエーデン・フィンランド、そしてデンマーク、さらにドイツなどへの広がりが著しかった。そしてワインのうんちく文化の国・イギリスが自然派に動きだした。
12年5月にロンドンで盛大に自然派ワイン見本市が行われた。そして何と言ってもアメリカが自然派ワインに本格的に目覚めたという感じだ。
12年は多くの自然派醸造家がアメリカまで市場開拓に行っていた。

アジアの大国、中国へも自然派ワインの輸出が始まった。上海には自然派ワイン専門のフレンチ・レストランも既にあり結構繁盛している。
まだ僅かではあるが韓国、台湾、シンガポールにも自然派ワインが輸出されだした。
3年前までは、フランス国内のコアな自然派ファンと日本輸出が自然派醸造元を支えてきた、と云っても過言でない時代があった。
この自然派ワインの広がりを見るに、自然派ワインの発展に全精力を費やしてきた我々にとって心から嬉しさが沸いてくる思いである。
13年はさらに大きく伸びることが予想される。 自然派ワインの造り手が急増している 造り手の状況も、大きく様変わりしているのを感じる。
自然派が初期から数年前までは、特別な人達が個別に自然な造りを孤立して造っていた時代。マルセル・ラピエールを中心にグループが形成されてきた。
そしてワインライターのシルビー・オジュロやカトリーヌ・ブルトンがデーヴ・ブテイユという自然派ワイン見本市を開催して以来、孤立していた自然派ワイン醸造家同士の横の繋がりが一挙に増えた。
ディーヴ・ヴテイユに匹敵する大きな見本市、ル・ヴァン・デ・ザミ、ヴィニ・シールキュスなどが近年形成されていった。
その他にもディーヴ・ブテイユ系の横の繋がりからフランス全土の各地方の気の合った醸造元同士がグループを結成して、約30箇所でミニ・自然派見本市開催されるようになった。

例えば、シェ・アン・シェ・ロートル(シャブリにて開催)、ボージョレーヌ(ボジョレ)、ルミーズ(ローヌ)、フェスティヴァル・ドゥ・ヴァン・ナチュール(ラングドック)など他多数あり。
こんな具合に、ほぼ2週間ごとに、どこかで自然派ワイン見本市がフランス中で開かれている。こうした継続的な見本市で自然派ワインに目覚めるファンが着々と増えている。
この様な見本市で知合った醸造家同士の情報交流のお陰で自然派ワイン全体の品質もますます高上しているのも見逃せない。
こうした活発な自然派ワイン見本市に影響されて、自然派醸造家がフランス全土で増えている。

13年は新しい波 ヌーヴェル・バグがやってくる!
新しいスタイルの自然派が発生している。
今までのディーヴ・ブテイユ系から分派していった小さなグループではなく、彼らとは直接的に全く接点のない若手醸造家達が増えている。
あるいは反ディーブ・ブテイユ的な自然派醸造家も増えている。自然派ワインの元ファンだった人達が転職で醸造家になる人も多い。
また、今まで農協に属していた人達が、農協を辞めて独立する人達も急増している。
彼らの共通点は比較的年齢が若いこと、自然が好きで、地球を汚すような作業をしたくないと考えている若者達。彼は気張ることなく普通に栽培も醸造も自然にやることを最初から決めている。
今までの自然派グループとは全く縁がなく、ディーヴ・ブテイユ系は何となく自分達とは違うなと違和感を感じている人達。
デイーヴ・ヴテイュ系のいわゆる自然派グループもメンバーが増えすぎてこれ以上メンバーを増やせない状況になっている。
若手醸造家から見ると、『何かチョット閉鎖的で、有名自然派醸造家もいて、チョット近寄りがたく、堅苦しい。』と思っている若手も多い。

今までの自然派醸造家とは全く違ったアイデアでワイン造りに取り組んでいるグループが誕生している。
その中の一つを紹介すると、南フランスのニーム近辺で、小さな新人醸造家がグループを組んで素晴らしい自然派ワインを造り上げている。
素晴らしく美味しくて、価格も安く、アルコール度数も比較的低くスイスイ入ってしまうワインのスタイルを造り上げている。彼らは云う『昔、フランス人が1日2リッター程、飲んでいた頃のワインのスタイルを復活させたいんだ!』つまり、アルコール度数も低く、その割に果実味も乗っていて、さわやかさもあって、まさに水代わりにグイグイ飲めた時代のワインのスタイルを狙っている。しかも『価格は誰でも買えるように安くなくてはダメなんだ。』と言い切る。
美味くて、グイグイ飲めて、自然で、安い、と4拍子揃った自然派ワインを目指している。
このメンバーを引っ張る3人、トップはMONT DE MARIEモン・ドゥ・マリーのテェリーだ。元コンピュウーター技師だった。
安くする為に徹底した経費管理をしている。栽培を完璧にビオ、アルコール度を低くすること、心地よい果実味を残すこと、自然酵母でSO2を瓶詰時に少々、必要なしと判断した時は無添加。旨い!
グイグイ!自然!安い!4拍子揃ったこの夢のようなワイン造りに賛同して一緒に行動するのは、MAS LAU・マス・ローのローラン、VALLAT D’EZORTヴァラ・デゾルのフレデリックだ。
この彼らのワインは間違いなく自然派の動きに一石を投じるヌーヴェル・バグになるだろう。応援したい。

13年も世界の困難な経済状況をモノともせず伸び続けるだろう!
世界的経済不安の中、12年も爆発的に市場を広げた自然派ワイン。
特に欧州の経済は困難を極めている。そんな状況下をモノともせずに、造る方も、売る側も伸びているのは、明らかに理由がある。
人々の価値観の変化が着実に進んでいるのを証明している。最近の若手醸造家の動機として、『地球を汚すような栽培はしたくない!』という言葉に象徴されていると思う。
20代、30代の人達にとって、地球の存続、生態系の存続への不安は意識下のところで深く刻み込まれている。昨年の年頭レポートで述べた、『カルチャー・クリエーティヴ層の人達が急増中』の実態がさらに進んでいると思う。人々がモノを消費したり、食べたりする為に購入する際の価値観が大きく変化している。ただ美味しいだけでは購入しない。
どんな栽培をして、どんな造りをしたのか、トレサビリテが益々重要性を帯びてきたと云う事だと思う。単に有名だったり、評価が高いだけでも購入しない。
地球にやさしい造りの本物度が要求されている。ワインの世界には、宣伝・広告費に莫大な費用を費やす企業化した超有名銘柄もあり、そんなワインは中国、ロシアに代表される国々で問題なく売れていくだろう。美味しいから売れているのでなく、超有名であることに価値がある世界の商財だ。自然派ワインはあくまで農産物である。
有名無名に関係なく畑で造られるものなのである。経費の殆どは畑に費やされる。どんなに贅沢に経費を使って、ブルゴーニュなどの高い土地代を考慮しても一本3万円を超えることはない。
殆どの自然派ワインの価格帯は2000~6000円内に買えるものが多い。自然派醸造家がワイン造りで負うリスクを加味すれば安すぎるくらいである。
自然派醸造家で宣伝費などに莫大な費用をかける巨大な企業な存在しない。小規模で、誠実に畑・天候と向き合いながら、飲む人達の健康をも考えながら、地球を汚すこともなく、妙な化学剤を使用することもなく、美味しいワイン造りにコツコツ努力する自然派ワインは今後ますます伸びること間違いなしといえる。なぜなら本物だから。
価値観の変化が著しく、カルチャー・クリエーティヴな人達が今求める価値基準に正にピッタリの条件を備えているのが自然派ワインだ。
13年は今までとは次元の違う世界へ広がっていくだろう。

伊藤  PARIS