シルヴァン・ファダとコカリエールの畑(すり鉢状になった北向き斜面)

〜 コカリエール物語 〜

シルヴァンはこの畑にくると眼つきが子供のように輝きだしてしまう。この畑を開墾する為に、あまりにも多くのものを犠牲にしてきた。常識人なら絶対にやらない挑戦だった。当の本人も途中で躊躇しかけたことも何度かあった。
山の精に取りつかれたのではと誰もが思った。
この地は地質学的には大変興味深い場所だった。太古の昔、火山の火口跡であり、後に湖があった場所だ。すり鉢状になっている地形だ。彼にとっては、子供の頃から村の羊飼いのおじいさん達から聞いていた特別な場所なんだ。
『シルヴァン、あの山の奥には特別な植物がいつも生息している場所があるんだ。』
シルヴァンは羊飼いのこの言葉を忘れることはなかった。


この地は乾燥した土地だ。だから植物が絶えずあるということは地下水なり水源があるということである。
この辺の山は、低雑木草のガリグとよばれる野生樫の木か野生のタイムやローズマリの低雑木草しか生息できない。木が高くなるとタラモンターヌと呼ぶ強風がなぎ倒してしまう。この風の影響もあって乾燥度が厳しく、極度に痩せた土地だ。栽培できるのは生命力の強い葡萄木かオリーヴの木ぐらいしかない。

〜 開拓中、畑から取り除いた岩盤のほんの一部 〜