鶴の恩返し,マルセル・リッショ−

6月6日、南ロ−ヌに自然派の波をもたらしたリ−ショを訪問(レブルスカ−ドの畑にて)。
マルセルが20代前半の頃、ワインを造り始めたばかりの時、醸造所が無かった。マルセルのお父さんは葡萄栽培家だったが、収穫をした葡萄をすべて農協に売っていた。だから醸造する場所、設備は一切無かった。
マルセルは自分で栽培したワインを農協に持ち込みたくなかった。1年間苦労して自然栽培した葡萄を他の
葡萄とゴチャ混ぜにして醸造してしまう農協のやり方に納得がいかなかった。
こんな事を続けなければならないのなら葡萄栽培を止めようと悩んでいた。
解決策のない壁に悩んでいる時、子供の頃から顔見知りの近所のお爺さんに会って、この事を相談した。
『マルセル、俺の醸造所を使いなさい!』と気持ちよく醸造所の片隅を貸してくれたのであった。
このお爺さんのお陰でマルセルはワイン造りを始められたのだった。マルセルはこの“恩”を忘れることが無かった。しかし、しっかりしたお礼を云えないままお爺さんは亡くなってしまったのだった。

30年後、近所の若い女性がマルセルの門を叩いた。
エロディ 『ムッシュ・リッショさん、あなたの醸造所でワイン造りの研修をさせてくれませんか? 』
マルセル 『君の顔は見たことあるけど、名前は? 』
エロディ 『エロディ・バルムです。 』
マルセルは驚いた。バルム・・・・バルム、あの世話のなったお爺さんのお孫さんだ!
バルム爺さんの顔や当時自分が八方塞がりの苦しい状況にいたことなど色んなことが頭に浮かんだ。大きな瞳で真っ直ぐ見つめているエロディを見つめ返した。
マルセル 『勿論だよ!』快諾した。
でもマルセルはお爺さんとの過去のことを口に出さなかった。

エロディ・バルムの2年目のワインを飲んでディスカッション

マルセルは約30年かけて自得してきたことを惜しみなく伝授した。エロディは1年間はマルセルの醸造元に
入り込んで研修した。その熱心な姿と姿勢にマルセル自身も感動したし、影響された。
マルセル自身はある程度のところまで到達してしまった。若い頃のワインに対する情熱が冷めかけていたところだった。そこに若きエロディが登場して、その熱心な姿に若かった時の自分を見るようだった。
ドンドン成長していくエロディを見て、世話になったバルム爺さんへの“恩”返しができていることに感謝の念が止まらなかった。マルセルは本当に嬉しかった。

今日はエロディが独立して2年目の2007年産ワインを一緒に飲んだ。正直云ってマルセルは驚いた。
自分が約30年費やしてたどり着いたワインの境地に、たた2年で近づいてきたエロディをみて本当に心から嬉しかった。次々に質問を畳み掛けてくるエロディに、的確に次々と答えていくマルセル、2人の師弟関係は横で見ていて美しさを感じた。

エロディに刺激されたマルセルは今、
次の世代の為に葡萄の植樹を始めた。
現在の自分があるのは先祖や先輩達が植えた葡萄があるからだ。感謝と恩返しの念をこめて、60年後の後輩達の為に植え始めた。しかも伝統マサル方式の苗木の作り方弟子達に伝授しながらである。