カベルネ・フランは難しい品種だ。

この品種の名前を聞いただけで逃げていく人が多い。

何故?

カベルネ・フランは誤解されている。

多くの人はこの品種の特性として、“青臭”さあると決めつけている。

このフィリップ・アリエ醸造のフランは、繊細な果実味、きめ細かなタンニン、果実の熟度からくる深味みを備えた柔らかさ、そしてフラン独特の爽やかさが実に心地よい。

造りを一歩間違うと、この“爽やかさ”の部分が、ロワールの一般的な醸造家が醸すと青っぽくなってしまうこと多い。

アリエでは、青っぽさは絶対にアリエない。

実に単純なことである。発酵槽にはいる葡萄は理想的に熟して、完璧に健全な葡萄房だけである。

云うは安し。

私は多くの醸造家の収穫に立ち合ったことがある。

アリエの収穫に立ち合って、その選果の厳格さに驚愕したのでした。ホントに特別だった。

収穫が終わった後の葡萄木の下には、傷んだり不健全な葡萄房が、驚くほど多く捨てられていた。

カベルネ・フランをこのレベルまで完成度を上げるには、やっぱりここまでの徹底した作業が必要なんだ。

発酵槽に入る葡萄房はホントに完璧に健全な葡萄ばかりでした。

フィリップ・アリエはカベルネ・フランの巨匠と云ってもよい。最も重要なことを、迷わずやり切ってしまう。

無言でキッチリやるべきことはやり切ってしまう仕事師。まさに、日本風に云えばフランの巨匠と云っていい。

フランスのミッシェランの星付きレストランで、多くのソムリエ達に評価されてオンリストされている。

職人肌のアリエ家の人々は、ジャーナリスト達に自分達を、必要以上に売り込むようなことは一切しない。

だから、フランスのプロ中のプロ達のなかでは有名だけど、特別な愛好家は別として、一般人にはあまり知られていない。

 

醸造、熟成中の温度管理も流石と思う程に完璧だ。

アルコール発酵は外気の温度をシャットアウトできるコンクリート槽、樽熟成はロワール独特の白亜質の洞窟の中で実施。

アッサンブラージ、短期熟成などは雑菌が入らないクリーンなステンレスタンクを使用。

ワインは、4つの要素で成り立っている。テロワール、天、葡萄木、人、この4つの要素が縦横無尽に掛け合わさっている。

最も需要な要素の一つがテロワールであり、そこにある鉱物、土壌に生息する微生物、近隣に生息するすべての植物、生物などすべてひっくるめてテロワールと呼ぶ。それぞれがお互いに深く影響し合って葡萄が育っていく。

特に大切なのは、その土壌に住む微生物であり、その一部が自生酵母群である。一年間の雨・風、湿気、日照、を葡萄木と共に経験して記憶している自生酵母のみが、発酵しながら、そこのテロワールの情報やエネルギーをワインに映し出すことができるのである。これが自生酵母で発酵することが超重要である理由だ。他から持ち込んだ酵母菌で発酵したワインにはテロワールは薄い存在しかしない。

そして、その自生酵母群が、元気でエネルギーがあることが超重要。

最近のワインに妙な香りがでたり、揮発酸がやたらに多いのは、自生酵母群が元気に働かないことに起因することが多い。

だから、自生酵母が元気に育つ為に、自然栽培を実施している。

あまり神経質に造ってもワインが硬くなってしまうし、大雑把にやると雑味がいっぱいになってしまう。

愛情をもって暖かく包み込むような気持ちで、ピンポイントで“その時”に必要な作業する。

フィリップは、モクモクと必要なことをシンプルに実行している。優しく繊細で、青臭くないワインが出来上がる。

だた一つ、やるべき事は何があっても遂行する。

この感じが、ちょうど人間味がにじみでてきて、繊細さも爽やかさもあって心地よいワインができる!