今、何故、自然派なのか

自然本来の恵みをふくんだ葡萄自然本来の恵みをふくんだ葡萄

フランスワインの現状

フランスワインは華やかな部分と地味な部分と2極分化している。
華やかなグランクリュを中心にした部分は、フランスワイン全体から見ればほんの一部分でしかない。

フランスの葡萄栽培農家の70%は農協に属している。
フランスワイン業界全体を語る時、この農協の影響力と現況を無視して、華やかなグランクリュだけを語っても全体が見えてこない。

農協系農家 70%

醸造設備を持っていない農家。
収穫した葡萄を農協に持ち込んで、葡萄重量に対しての対価(価格/kg)を受け取る。

独立系農家 30%

自分で醸造設備を持っている小中規模の葡萄栽培農家、醸造元。
グランクリュもこの中に属していて、この中でもほんの数%を占めるに過ぎない存在である。

このフランスワインの全体像を認識した上で、これからの話を進めていきたい。

全体のほんの数%にしか属さないグランクリュ、超有名ワインは常に顧客がついている。
ロシア、中国のニューリッチ、マフィア的お金持ちなど、世界中のリッチを顧客にした華やかな特級、一級グラン・クリュ・クラッセの世界は常に顧客がいる。

農協が倒産する時代

それに反して、フランスワイン業界の70%を占める農協が今、経営上、瀕死状態である。
農協ワインが売れなくて困っているのである。既に倒産した農協が多くある。

倒産しなくても、決して良好な経営状態ではない。
栽培農家が収穫した葡萄を農協に持ち込んでも、農家に対価を払える経営状況ではないのである。

つまり70%の葡萄栽培農家が、大変苦しい生活状況にあるのが現状である。

若き後継者が面白い・・農協から独立・・
本来のフランスワインの風味復活の必要性

栽培農家の若き後継者の悩みは、農協にこのまま属していても、将来に希望を見出せないことである。
多くの若き醸造元が農協から独立して単独醸造元として活躍することを夢見ている。
勿論、既に多くの農家が独立している。
ここで問題なのは、独立しても、農協が造っているワインと同じようなワインを造っても売れないと云うことである。

何の特徴もないワインは売れない。
ただ美味しいだけでも売れない。
価格が安いだけでも売れない。
この現実が彼らを待っている。
美味しいワインは世界中に沢山あり、しかも人件費の高いフランス産でなくてもよい。

フランスでなくては造れない味わいが必要である。と云うよりもそれぞれの土壌に根ざした特徴ある風味のワイン。
しかも文句なく美味しく、価格もリーズナブルなワイン。こんなワインが必要なのである。(これが自然派ワインの条件の根幹部分)

この一見当たり前のような条件を備えたワインが、いつの間にかフランスから消えてしまっていた事実が問題なのである。
1935年に誕生したAOCの理念の原点に戻ればよいのである。
今のワイン造りが如何にこの原産地呼称の理念にそぐわない栽培方法や醸造方法をやってしまっているかが重要な問題なのである。

フランスワインの原点に戻って、再構築する必要がある。

ワインのスタンダ-ド化は、どのように発生して、現在に至ったのか?

何故? いつ頃から?どんな風に?AOC(その地方、地区、村)や土壌の特徴がないワインが増えていってしまったのか?

除草剤の使用

それは1960年代に使用されはじめた除草剤に起因する。
農業国フランスの農業近代化には必要不可欠な存在でもあった除草剤なのである。
農作業で最も人件費が掛かるのは草とりの為の耕す作業である。
人的手作業でやると1ヶ月掛かる仕事が、この除草剤を撒くと3日で終わってしまう便利なものなのである。
瞬く間にフランス中に広まったのは云うまでもない。
除草剤の多用を数年続けた畑に起きた現象は、耕すことがない為に土が固まってしまって、まるでコンクリートのように硬い表面の畑になってしまった。
酸素が地中内に入ることもなく、その上、除草剤の毒性の為に微生物やミミズが畑から姿を消してしまった。
畑に有機物がなくなり、土壌としての機能がなくなってしまった。
葡萄木が育たない,葡萄果実が熟さないという状況になってしまった。

化学肥料の使用

そこで登場したのが、化学肥料である。
化学肥料を多用すると、土壌の表面に栄養素がある為に根っ子が地中深く伸びていかない。
根が地表近くに滞留してしまう。

ワインにその土壌独特のミネラル風味を与えてくれるのは、地中深く伸びた根っこの役割が大なのである。地中10メ-トルともなれば、ロッシュメ-ルと呼ばれる昔海底だった時代の地層である。
地殻変動で古いところでは数億年前の地層が存在している土壌もある。
その貴重なミネラルつまり鉱物のエネルギ-や風味をワインに与えてくれるはずの根っこが、地中に伸びなくなってしまったのである。
当然、その土地独特の風味がないワインができあがる原因の一になっている。
しかし、化学肥料は時代の要請に応える必要不可欠のものでもあったのである。

60年代の後半から70年代にかけて、フランスでも大型ス-パ-が乱立した。
当然、ワインもス-パ-商材として重要な存在となり、大量生産、大量販売の時代の要請には、この化学肥料は重要な存在だった。
質よりも価格と量が重要だった時代である。農協の全盛期時代でもある。特徴が無くても、安くて、飲める程度の品質なら売れた時代である。
フランスのワイン消費量も今の1.5倍はあった時代である。昼食でもワインを飲むのは普通の時代だったのである。

オノロ-グ事務所の増加

80年代にはいって、ワイン造りに大きく影響を与えたのが、オノロ-グ事務所の増加である。
醸造学部を卒業するとオノロ-グという醸造学士の称号が与えられる。
彼らは農協に就職したり、大手醸造元に就職したりするが、優秀なオノロ-グは自分で事務所を開設する。最も有名なのがミッシェル・ロ-ラン氏である。
彼らの仕事は複数の醸造元と契約をして、葡萄栽培から醸造までの最新技術の導入指導をすることである。

それまでは、親から子へ代々の伝統を伝える方法でワイン造りを経験的に継承してきた。
その為、無知からくる失敗も多くあった。醸造中にワインがヴィネガ-“お酢”になってしまった経験はどの醸造元でもあったことである。
そのような、初歩的な醸造上の失敗は、このオノロ-グ事務所と契約すれば全く無くなる。
なぜなら、オノロ-グが定期的に醸造元を訪問して、ワインを分析して必要な措置を指示してくれるのである。非常に便利なシステムだったのでフランス中にオノロ-グ事務所が急増した。(今では、フランス中の醸造元はオノロ-グ事務所と契約している。)

オノロ-グによる指導がワインのスダンダ-ド化に拍車

葡萄園の状況は、除草剤や殺虫剤、化学肥料の多用で畑も葡萄木も弱体化してきており、健全な力のある葡萄を収穫するのは難しかったのである。ここにオノロ-グが重要な役割を演じたのである。
どんな葡萄を収穫しても、そこそこの味わいに整えてくれる最新醸造技術をオノロ-グが指導してくれたのである。良い年も悪い年も大きな遜色ないワインを造ることを可能にしてくれたのである。
便利な裏には必ず欠点もある。オノロ-グの指導で失敗は少なくなったがワインのスタンダ-ド化に拍車がかっかったでのある。
例えば、ボルド-大学出身のオノロ-グはボルド-大学の最新技術を至るところで指導する。すべてが似たタイプのワインが出来上がってしまう。ミッシェル・ロ-ランが指導すると、どこの地方で造っても、違う国で造っても同じタイプのワインが出来上がる。
これは批判してる訳ではありません。
ただ、ワインのタイプの違いがその土壌に由来していないのが、残念なのである。
弱体化した土壌や葡萄木をカバ-する為の“技術”となってしまっていることが問題なのである。

風味付け人工酵母の登場

そして、90年代にはいって、更に醸造技術は進歩した。
相変わらず、除草剤、殺虫剤、化学肥料は使い続けている。
20年、30年も使い続けた畑には微生物は皆無であり、畑に生息すべき土着の自然酵母も存在しない。
だから、収穫した葡萄を醗酵槽に入れても醗酵が始まらない。
そこでバイオテクノロジ-の出番である。化学的に造られた酵母菌を混入すれば問題なく醗酵が進む。
しかも、この人工酵母菌はお好みの香りをワインに与えることが可能なのである。
ルヴュ-アロマティックと呼ばれる香付酵母菌、高度バイオテクノロジ-のおかげである。
例えば、バナナの香りを付けたければB65を使用すればよい。この酵母菌は約300種類
も存在している。カシスの香り、ミュ-ルの香りと何でも可能なのである。
しかし、ここでも、問題なのは土壌に根ざした香りではないことである。
自然派のフィリップ・パカレ氏は『ワインにその土壌独特の風味を与えてくれるのは、その土壌に住む土着自然酵母だ』と言い切る。

SO2の多用が土壌の風味を抹殺

ここでもう一つ大事なことは、SO2の大量混入だ。
人工酵母を使用する場合、他の雑菌や僅かでも残っている自然酵母を抹殺してニュ-トラルな状態にする必要がある。その為に収穫直後に多量のSO2の添加をしてしまう。
弱体化した畑から収穫される葡萄果汁はエネルギ-がなく雑菌に犯され安いので、SO2を大量に入れてニュ-トラルな状態にすればトラブルが無くなるからである。
数億年のミネラルのエネルギ-の影響を受けた自然酵母を抹殺してしまうのは本当に残念なことである。
土壌独特の複雑味を与えてくれる要因をすべてクリアにして消し去ってしまうことなのだ。
極端な多量のSO2の使用は、自然な葡萄風味を一旦、ニュ-トラルにして、そこから自分が目指す風味を人工酵母によって造り上げてしまうようなものである。まさに人工的ワインになってしまう危険性があるのだ。

ここでも問題なのは、土壌に根ざしたワインの風味からますます遠ざかってしまっていることなのである。
今回述べたことは、分かり易くする為に極論的に書きました。醸造技術の進歩やオノローグがフランスワイン業界に与えている絶大なる功績を批判することではない事をここに付け加えておく。
オノローグの中でも、多くのオノローグ達が土壌再生の為に奮闘努力している姿を筆者は見ている。
この事実も付け加えておく必要がある。
ワインのスタンダ-ド化に至った事実経過を認識しておく事は、今後のフランスワイン業界の流れを推理する上でも、自然派と今呼ばれている潮流を根幹的に理解する上でも大切なことである。
ここでちょっとまとめてみることにする。

土壌重視のワイン造りへの回帰

こうして、土壌に由来する特徴をもたないワインがフランス中に至るところに氾濫してきた。
このような、テクニックワインを横目で見ながら、心ある、勇気ある醸造元が『やっぱり、テクニックに頼り過ぎるのは良くないだろう、原点である土壌をもう一度耕して、微生物やミミズが生息する畑に生き返らして、根っこをまっすぐ下に伸ばし、ミネラルをたっぷり含んだ果汁の葡萄を育て、畑に生息する自然酵母のみで醗酵をしよう。つまり自分達のお爺さん達が造っていたワインに戻ろう』と云う土壌重視のワイン造りへの回帰が自然派の起源だったのである。
これらの動きは、テクニックワインが氾濫してきた1980年代後半から始まった。

ワイン工業的生産・・不味いワインの増加・・ワイン消費量の激少・・農協から独立・・本物ワイン

2000年代にはいって、フランス人のワイン飲量がさらに減ってきている。
原因の一つは、不自然なテクニックワインの氾濫だと思う。
普通のカフェやレストランで普通に出るワインが不味くなった。昔は飲めるハウスワインが多かったのに、今は飲めないワインが多すぎる。本当に顔がゆがんでしまうワインが多すぎる。
その殆んどが農協ワインである。農協ワインが売れないのと、消費量が減るのも無理がない。
今、フランスワインが変わろうとしている。いや変わらなければフランスワインは一部のワインを除いて壊滅するだろう。
巨大組織である農協が変わるのは難しい。農協から独立を志す後継者達が面白い。
そして、既に独立している個別醸造元やグランクリュのワインもこのスタンダ-ドが蔓延している。
つまり醸造テクニックの乱用である。
どれを飲んでも同じようなワインに仕上がってしまっている事実がある。
土壌を復活させて、土壌に根ざしたワインの風味を備えたワイン、つまり本物ワイン復活が、今求められている。

自然派の定義について

この動きは、本来の土壌に重点を置くワイン造りへの回帰である。
果たして“自然派”と呼ぶのが正しいか、筆者は多大の疑問を感じる。
今、フランスでも、日本でも自然派と呼ばれているワインの愛好家や専門家が強調し過ぎていることが幾つかある。それらを述べることで自然派の定義を浮き彫りにしていきたい。

1 SO2の無添加について

ここで問題なのは、自然派専門家と言われている人達の中で、このSO2に敏感に反応し過ぎる人達がいる。。僅かでもSO2がワインに入っていると“これは自然派ワインではない”と言い切ってしまう人達である。
自然派の著名な醸造家も含めて、必要な時の必要な量のSO2の使用を容認している。
年代によっては収穫した葡萄の品質によってはSO2の使用なしでは醸造するのは不可能であることをよく知っている。SO2添加の時期、添加量が問題なのである。
ここで批判すべきことは、収穫した葡萄を醗酵槽に入れて醗酵前の段階でドサっと大量にSO2添加をしてしまうこと。しかもこの作業をシステム的に実施してしまうことである。
オノログの中には、失敗する危険性をゼロにしたいが為に、どんなに健全な品質の葡萄が収穫されてもドサっと大量に添加することを指導しているオノローグがいる。(醸造上のトラブルが発生すると自分の責任にされてしまう事を避ける為)これには納得がいかない。天候の良い年の収穫は雑菌も少なく、健全な自然酵母が葡萄の皮に付着しており、SO2の使用を控えて醸造すれば、自然酵母から醸し出される土壌に由来した実に素晴らしい複雑な風味が得られるのである。
その貴重な可能性を、単に失敗の責任逃れの為に、SO2の多量添加を指導するオノローグが多いのことは残念なことである。そのようなオノローグの指導に何の疑問ももたないで実行している醸造元の姿勢も残念でならない。収穫された葡萄の健全度に合わせた使用を問題意識をもって研究してもらいたい。

健全な葡萄造りの為、農作業の重要性

著名な自然派の醸造元は、SO2の添加をしなくても良い健全な葡萄を収穫することに、全神経を集中して一年の畑作業をしているのである。
かりに天候に恵まれず健全度の低い年でも、収穫時に選果作業を厳しくやって極力健全な葡萄のみを醗酵槽に仕込むという大変な努力をやっているのである。当然そんな年の生産量は普通年の半分になってしまうことが多い。彼らが行なっているこの努力をもっともっと評価しなければならない。
彼らがSO2の添加を控えている部分のみが強調されているが、大切なことは添加しなくても済む葡萄栽培、畑作業の重要性をもっと強調していく必要がある。2倍いや3倍の労力を費やしているのである。
SO2の使用を抑える一番の理由は、自然酵母を生かすことであり、SO2無添加そのものが目的ではないことを認識しておく必要がある。SO2無添加そのものが自然派の定義にはならないことを認識しておく必要がある。収穫した葡萄の健全度に合わせて、自然酵母を生かす添加量を考慮すればいいのである。

2 公式協会によるビオロジック認定について

結論からいうと、公式ビオ認定を受けているか否かは重要なことではない。
重要なことは、実際に畑で何をしているかが問題であり、実際に土壌に微生物やミミズが生息しているか?自然酵母が畑で育っているか?などが最も重要なことである。
そして更に重要なことは、美味しいワインを造ろうと云う目的の為にビオ栽培をしている、という認識を持っているか否かである。

公式にビオ認定を受けている醸造元のワインが美味しいか?と云うと残念ながら不味いワインが多いのに驚く。
特にラベルに所狭しと大々的にビオロジックであることを宣伝しているワインは不味いものが多い。
だから単なるビオワインが我々の云う自然派ワインと勘違いされることが一番困ることである。
まず第一に、栽培だけは無農薬栽培でビオの認定をうけて、醸造方法は全く普通の造りをしているところが如何に多いことか。
ビオ栽培をすることが目的で美味しいワインを造るのが目的ではないと思わせる醸造元が実に多いのである。
ビオ栽培で得た貴重な葡萄の素材を生かした醸造方法を採用していないのである。
最近特に多いのは、宣伝効果の為にビオを始める農家が増えていることである。

とは言っても、ビオ認定されたワインは、土壌が生きていることの一定の目安になることは事実である。
自然派の多くの醸造元は、土壌に根ざした美味しいワインを造ることが目的であり、その手段として土壌を生かす無農薬・自然栽培を実行しているのであって、認定を受けるか否か、を問題にしていないのでが現実である。
つまり、ビオワイン認定の有無?は自然派ワインの定義には入らない。

3 栽培・醸造技術への極度の批判

自然派愛好家の中には、醸造技術を極度に嫌う傾向にある。
醗酵のメカニズムは物理学の世界であり、科学的アプロ-チを批判すべきではない。
天と地と人のパワ-を最大限に生かした栽培・醸造には物理科学のアプロ-チは大切なことである。
自然派の父の云われているジル・ショ-ヴェ氏は立派な物理科学者でもあった。
ジル・ショヴェ氏の直弟子であるフィリップ・パカレ氏もワイン造りは物理学の世界だ。と云っている。
光合成のメカニズムにしてもしかりである。彼のワインラベル上にはアインシュタインの相対性理論の公式が書かれている。
天と地を無視したり、天と地のエネルギ-の不在をカモフラ-ジするための技術は批判されるべきであるが。天と地を生かすための技術は大切なものなのである。
それらの技術をも否定することが自然派の定義ではない。
中には、樽熟成する事自体もテクニックとして批判する自然派愛好家の人達もいるのには困ったものである。例え新樽を使用しても、土壌に根ざした風味がワインにある限り立派な自然派なのである。
新樽熟成した自然派ワインを、早飲みすれば樽香が前面に出て来て邪魔に感じることがあるが、ゆっくり熟成して樽香が溶けてから飲めば実に素晴らしいワインになる。残念ながら自然派ワインはまだ古い年代ものが少ないので、自然派は早く飲まなければいけないと勘違いしている人が多い。
また自然派ワインは果実味だけが特徴だと勘違いしている人も多い。
1960年代以前のまだ除草剤や化学物質が畑に使用される前のビンテ-ジものは、すべて立派な自然派ワインだったのである。現在のグランクリュワインの中で、オスモや人工酵母などのテクニックを使ったものなどは、どんなに熟成しても60~50年代の風味を出す事は不可能だろうと云われている。

以上、自然派ワインの定義を簡単にまとめるならば、
『健全な葡萄を育てるために、天と地と人を最大限に尊重した栽培、醸造を実行したワイン。』と云う事ができる。
世間でよく云われている、SO2無添加とか、ビオロジック認定とかは、天と地と人を生かす為の単なる“手段”であって自然派の定義ではありえないことを認識していただきたい。
そして、自然派ワイン、ビオ・ワインという呼び方が本当は適当ではないと思っている。
自然派ワインとは、テロワ-ルワインのことである。簡単に言えば本物ワインである。
テロワ-ルワインの定義については、フィリップ・パカレ氏がジルショ-ヴェ氏から学んだことをまとめて次の公式で表して説明している。

本物ワインとは?

土壌 Sol

  • 微生物
  • 自生酵母(自然酵母)
  • 土壌構成

風土 気候 Climat

  • 地形(方角・標高)
  • 降水量
  • 日照度
  • 生物生命

葡萄木 ぶどう品種 Cepage

  • マサル式選別
  • クローン

人 Homme

  • 栽培
  • 醸造発酵

テロワ-ルワイン(自然派ワイン)の定義とは
土壌、風土、葡萄木(品種)、人、これらが縦横無尽に影響しあって、其々の持ち味を最大限に表現されたワインのことである。

天と地の歴史を遡ることは大変重要なことである。何故なら葡萄木も人も地球上の生物として天と地の影響を大きく受けているからである。

天、つまり宇宙の法則の中で生きているのである。宇宙の誕生は136億年前、太陽系が誕生したのが46億年前、そして地球の誕生もほぼ同時期の46億年前に誕生している。
其々の惑星が引っ張り合ったり衝突したり、影響しあって現在の地球に至っている。
そんな遠い昔の事とワインがどんな関係にあるのか疑問を感じている読者も多いと思う。
しかし、この認識は非常に大切なことなのであえて書かせて戴く。

我々地球のある太陽系は銀河系の中心に対して2.3億年の周期で回転している。そして地球は太陽を中心に回転している。
月は地球の周りを回転している。目に見えない引力が存在して、我々が意識するしないに関係なく宇宙の法則が存在して地球上に生息する全ての生き物に影響を与えているのである。

この事実は天と地を語る時、実に大切なことなのである。例えば月の影響で引力があり重力がある、そして満ち潮や引き潮があり、植物の種蒔には満月に向かっている時期に撒くと発芽率が高いとか、太陽が無ければ人間は一日たりとも生きられない。
何万光年と離れている星さえも、地球の生物に影響を与えているのである。
136億年前よりこの宇宙の法則は脈々と続けられてきたのである。

1 土壌  微生物-自生酵母(自然酵母)-土壌構成

土壌を構成している鉱物(ミネラル)群の幾つかはもともと地球にあったものではなく隕石の衝突という形で宇宙から運び込まれたものがある。例えば鉄、金、ダイヤモンドなどがそうである。数十億年をかけて植物や動物が堆積してできた地層、そして地球内部のマグマの噴火や火山の爆発による高温エネルギーによって生成された地球内で生成された鉱物群、そしてこれらの地層が地殻変動でかき混ぜられたり、ひっくり返されたりしながら現在の地層、土壌が存在している。数十億年という尊い年月をかけて堆積してきた鉱物群は、その流れた時を記憶してエネルギ-として蓄えられてている。それらをメッセ-ジとして波動を出しており、それぞれの土壌構成に適合した独特の微生物が育ち、それらの微生物群の一部が自然酵母なのである。
その土地独特の自生の自然酵母群が育つ。微生物が多ければ、力強い自生酵母が育ちやすい環境となる。
だから土壌をイキイキと生かすことが大切なのである。
そして、鉱物群のエネルギ-とメッセ-ジをワインの中に入れてくれるキュ-ピットの役割を果たしてくれるのが“自生酵母”なのである。(後で説明する根っ子も役割を演じる)
自生酵母は一箇所の生きた畑には、約30種類も存在している。その内、大切なのは5種類である。これらのいろんな性格をもった自生酵母が醗酵することによって、その土地独特の複雑味をワインの中に醸し出してくれる。
オノローグ学者の中には、『自生酵母は悪質な味を出す』と、自生酵母を批判する人が多い。
それは、除草剤などの化学剤を多用した微生物のいない畑では、良質な自生酵母が育たないからである。
微生物の多い土壌は、細菌作用で地層内部でも醗酵する。それによってその土壌独特の有機要因や無機要因が作られる。そして葡萄木の“根っ子”が地中から水分と一緒これらを吸収して樹液によってぶどう木に栄養を与え、種や葡萄果実の中に栄養素として蓄えられる。力強い果汁となる。
このようにして、それぞれの土壌に根ざした風味がワインの中に醸しだされるのである。
ミネラル感たっぷりの健全なワインができるのである。
壮大な地球の歴史から得た尊い土壌のエネルギ-をワイン造りに利用できないのは残念なことである。
だから、生きた土壌を造る栽培方法が重要なのである。
そういう栽培法を取り入れる人間の思考が重要となる。
鉱物を生かすには人間の力が必要である。人間がいなければただの石ころである。
生かすも殺すも醸造元の人間次第である。

2 風土・気候 地形(方角-標高)-降水量-日照度-動物

ワイン造りで無くてはならないものは、太陽である。太陽の光エネルギ-である。
太陽の光を利用して光合成を行なうことによって、葡萄の葉、房、糖などを造ってしまう。
だから太陽の当り具合は大変重要なのである。斜面と平地では光線の強さが全く違ってしまう。
そして光合成には水の存在も大きい。だから降雨量も大切な要素となる。
そして畑地下の水の流れ具合や経路も大変重要なのである。

ここで大切なことは、毎年違う天候から取れる葡萄の品質、健全度は毎年違うということである。
それを無理して毎年同じ品質・タイプのワインを造ろうとすると妙な醸造テクニックを使うことになってしまう。その年に収穫された葡萄の品質を素直に表現することが大切である。
毎年違うタイプのワインができるのは当り前で自然なことなのである。
しかし、自分の畑を知り尽くした経験を持った優れた醸造元は、栽培段階でかなり調整することができる。長年の経験を積んだ熟練醸造家は『熱い年でも、涼しい年でもよく畑を観察していれば栽培段階で濃縮度も酸も栽培段階で調節できる』と言い切る。
常に問題意識をもって、極限まで畑と葡萄を観察して、対応していれば、そこまでになるのだろう。

3 葡萄木(品種)

葡萄木が太陽光線のエネルギ-と周囲に存在する無機還元物質を利用して、電子を得て、二酸化炭素から炭水化物を造りだしてしまう。そして産業廃棄物として酸素を吐き出す。
葡萄木が行なう光合成のメカニズムである。

天と地

葡萄木は天(太陽)から光エネルギーを吸収して光合成を行う。光合成には水が必要である。
地から諸々のミネラルを含んだ水を吸収して、光合成によって葡萄果実や糖を造ってしまう植物である。

天から

  • 太陽光エネルギーから糖を造る。
  • 月から引力や重力の影響を受け、星からも一定の波動エネルギーの影響を受ける。
地から

  • 根っ子から鉱物エネルギーを吸収。
  • 生きた土壌が微生物や発酵に必要な自生酵母を育てる。

そして、“天からの糖”と“地からの酵母”つまり天と地の合体作業が発酵なのでる。
つまり、天と地のマリアージュがワインを造り上げてしまうと云える。

クローンとマサル

葡萄木がその土地の風土に本当に馴染むには300年はかかると云われている。マサル方式が良い。つまり植え替える時は、その土地で栽培されていた葡萄の枝を数種類ランダムに使用して苗木を作ることである。
クロ-ンの苗木は避けるべきである。優秀でもすべて同じ顔の生徒しかいない教室は不自然である。
一つが病気になると、全てに感染しやすい。味覚的にも単純で単一的な風味になりやすい。
マサル方式なら病気に対する抵抗力も強く。そして、何よりワインに複雑な風味がもたらされる。
遺伝子組換の葡萄木などは論外である。

4 人

最後に、テロワール・ワイン定義の4つの要素の中で最も大切な部分とも云える人である。
自然の法則を無視するか、否か、除草剤、化学物質をビンビンに撒くか否か、これ全て“人”が決断する。

  1. その人の哲学、生き方、価値観の方向性が全て、栽培方法、醸造方法に直接的に影響を与える。
  2. 美味しい健全なワインを造ろうと云う“志”を持っているか?

単なる家業として引き継いで、会社経営としてのワイン造りか。単なるお金儲けとしてのワイン造りか。
勿論、経営は大切であり、利益を出すことも重要な事である。
しかし、利益を第一に挙げる前に、“いいワインを造ろう”という人間としての“志”があるのと否では、結果的に大きな違いが出てくる。日本の言葉に“義の和が利なり”というのがある。人間としてやってはいけないことは洋の東西は問わない。ここのところは大変重要なところで、志を持った健全な人間として、やるべき事をきっちりやって美味しいワインを造って、その結果として経営も確り利益を上げているというのが望ましい。

農業を営む人間として実に大切なことで、これには二つの理由がある。

  1. 農産物は人の体にはいるもの。
  2. 土壌に手を加える仕事、つまり地球を汚すことも、より良くすることもできる仕事であるからである。

造り手の、人生観、哲学、性格までワインの中に表現されている。
最後に、この“人”の中には、造り手だけでなく、そのワインが飲み手に消費されるまでに関わる全ての人、酒屋、ソムリエ、ジャーナリスト、なども含まれる。
何故なら、これらの人達も、造り手に大きく影響を与えるからである。つまり、テロワール・ワインの定義の中に我々も含まれているのであり、重要な役割を演じているのである。

たかがワイン!されどワイン!

地球温暖化問題に象徴される地球危機の進行が表面化している現在、我々は各自がそれぞれの分野で地球のことを考えながら生活しなければならない最終段階に到達していると思う。
ワインの好きな人、ワインで生活を立てている人、たかがワインですが、少し地球的に考えても良いのではないかと思う。

ワインはただ美味しければ!良いのか?

ワインはただ、有名なら良いのか?

ただ表面上の美味しさを取り繕う為に、地球や人の健康を害することをやって良いのか?

我々は真剣に考える必要があると思う。

我々が先祖から引き継いだこの地球を健全な形で次世代の人達に継承しなければならない。

小さなワインの世界のことでも、やはり“健全性”は実に大切なことなのだ。

136億年の宇宙の歴史と46億年の地球の歴史が詰ったミネラル、つまり天と地のエネルギ-が詰まったワインは、曲がりかけた遺伝子をも元に戻してくれる力を備えている。とパカレ氏は云い切る。

たかがワインと思うなかれ!ワインは偉大な力を備えている。と私は信じている。
だからワインの健全性、本物性は地球規模的に考えても、人類史的に考えても実に大切なことなのだ!
だから自然派ワインなのである。

コルビエ-ルの孤高の自然派で、遺伝工学の博士であった故ラブイグ氏は真剣に云っていた。

『ワインで世界を変えることができるんだ。』

私はこの言葉を信じる。

燃やせ!! PASSION !! 燃えよ !! PASSION !!   伊藤 與志男  PARIS