午後は一気にトゥーレーヌからサンセールまで、約250kmのドライブだ。始めはちょっと遠いからどうかと思ったが、この造り手には行かない訳にはいかない、ということで行くことになった。Oさん、ありがとうございます。
サンセールはロワールの白ワインとしては真っ先に出てくるアペラシオンだが、その有名さのせいか、自然派の生産者が殆どいないさびしい地域でもある。そのなかで待ってました、とばかりに登場した生産者がこのドメーヌだ。いわゆる通常のブドウ栽培をしていた父、エチエンヌ・リフォーの仕事を徐々に引き継ぎ自然なブドウ栽培・ワイン造りに情熱を注ぐ息子、セバスチャンが、今まで全く知られていなかったサンセールの本来の姿を明らかにしてくれている。まだ26歳にもかかわらず、彼の目指すワイン造りは明快だ。彼に言わせると、サンセールで有名な大規模にワイン生産をしている某生産者は、「工場」だそうだ。人の手によって人為的に作られた培養酵母を用い、万人に受けるようにワインを作り出しているからだ。サンセールはソーヴィニヨン・ブラン100%で造られるが、妙にソーヴィニヨン・ブランの香りが強調されすぎているような気がしたことがあるが、そのせいかもしれない。

ロワール川の上流に位置するサンセールは標高320m程の高地で涼しい気候。トゥーレーヌと比べると収穫時期が15日も遅いそうだ。土壌は谷を境にして東西2タイプに別れ、東はシレックス、西は石灰土壌だ。シレックス土壌からはミネラルに富んだワインが出来、石灰土壌からは果実味に富んだワインが出来る。地殻変動で上下に重なっていた土壌が横になったため、このようになったと説明してくれた。
ドメーヌ・ド・ルーエでは、この両方の土壌に35もの区画を所有し、両方の良さを兼ね備えたワインを造ることが出来る。実質的に2002年からビオによるブドウ栽培を行っているが、2007年にはカリテフランスによる認証申請をし、2009年ヴィンテージからは認証ワインになる予定だ。

カーヴに戻り、タンクで熟成中の’07白の試飲だ。グレープフルーツの爽やかな果実味がスキッと気持ちいい。2007年は雨が多くmildiou(べと病)が多かったというが、このワインには、かびたブドウや傷んだぶどうからくるいやな味わいは一切感じられない!キッチリいいブドウだけを選別しているからだろう。彼のワイン醸造の特徴は、マロラクティック発酵をするという点だ。サンセールの90%の生産者はマロラクティック発酵を行わないというが、それには深い意味がある。ドメーヌ・ド・ルーエでは今では自然なブドウ栽培を行っているので、ブドウの根が地中深くまで伸びている。従って、土壌に含まれる沢山のミネラルや鉱物、養分を存分に根が吸い上げてくれるので、絞った果汁にはしっかり酸が含まれている。そしてアルコール発酵が終わったら何もしなくても自然とマロラクティック発酵が始まるのだ。そうして、ワインが自らりんご酸を乳酸に変化させ、酸味が和らぐと同時に深みが生じる。それに対して、決められたとおりに薬剤を使用する通常の生産者の場合は、本来地中から吸い上げるはずのミネラル成分や酸が極端に少ない。しかも、本内ならブドウ畑に自然に存在しているマロラクティック発酵をさせる酵素が絞った果汁に含まれていないのだ。だから自然にマロラクティック発酵が起きないのだ。自然なブドウ栽培を行わないと、後々のワイン醸造にも悪い影響が出てくる。良質ワイン造りで最も大事なことが栽培だということが、セバスチャンの説明を聞いてよーく分った。更に、大方の生産者は発酵が終わって翌春には瓶詰するのに対して、ドメーヌ・ド・ルーエではマロラクティック発酵終了後、一年間もゆっくりとタンクにて熟成させる。そうすることによって、テロワールが本来持っている味わいが徐々に表れて来るのだ。

‘06の白は、よく晴れて太陽の日差しを存分に浴びて育っただけあり、熟した洋ナシやハチミツのニュアンスまであるリッチなワインだ。赤は現在販売中の’05を試飲した。ピノ・ノワールの特徴のよく表れた、赤いスモモの素直な味わいだ。やはり12ヶ月タンクでゆっくり熟成させている。生産量が僅かで、今買える数量はたった300本しかない。すぐ押さえたいものだ。

サンセール、有名なアペラシオンだがいいものは本当に限られている。セバスチャンは、これからのサンセールを引っ張っていく、超重要な存在だと実感した。これからの活動が楽しみだ。