7月24日、フィリップ・パカレが、嫌いなアメリカへ旅立った。シアトルで開かれるピノ・ノワ−ル会議に
招待されての渡米だ。日頃、フィリップは『アメリカには文化がない。金、金で本物のワイン文化を理解できる人種ではない。』とアメリカを嫌っている。そのフィリップがアメリカに行くというので、周りのもの皆が驚いた。勿論私も驚いた。出発前日の7月23日の夜、パリの自然派ビストロ“バラタン”で夕食をともにした。

バラタンはフィリップにとっても大切な店だ。
フィリップ 『僕にとってバラタンは本当に大切なんだ。ピノッシュ(オーナーのあだ名)は僕の最初のお客なんだ。そして、世界中のレストランで最も好きな料理を出してくれるのは、僕にとってはこのバラタンだ!そして、ピノッシュは僕の心の友達だ!僕のワインをロック時代より本当に理解してくれている一人だ!それに奥さんのラケルが作る料理は最高に美味しい!世界一だよ!』と言い切るフィリップ。
私も同感だ!ラケルの料理はシンプルでやさしくて、美味しくて元気が出る料理だ。全く疲れない料理だ。

まず、 ラングロ−ルのタヴェルでアペリティフがわりに始めて、後はピノッシュからのブラインドで3種類ほどだされ、最後はやはりパカレのワインに戻った。
明日嫌いなアメリカに出発するフィリップは何故かテンションが高かった。自分のワインを再確認するかのように2本を立て続けに注文した。
Gevrey Chambertin 1er cru Bel Air 2006
Ruchottes Chambertin 2006
特にRuchottes Chambertin 06はまだ若いけど、絶妙な繊細さと上品さを備えたワインだった。これぞ、ブルゴ−ニュのピノ・ノワ−ルだ。

フィリップ 『伊藤、アメリカ人はこのワインを飲ませると、“薄いとか軽い”と表現する奴が多い。ピノ・ノワ−ルの繊細さを理解できない人種なんだ。』
伊藤 『フィリップ、シアトルでのピノ・ノワ−ル講演で一体何を喋るつもりなんだい? 』
フィリップ 『自分がやっている事をシンプルに喋るだけだよ!僕は理解してもらおうなんて気持ちは全くないんだ。ありのままのブルゴ−ニュの造りを単純に語るだけだよ。多分理解してもらえないだろうけどね。でもそれでいいんだよ。アメリカ人には“テロワ−ル”は理解できないんだ。』

何やらアメリカ行きを後悔しているような唇だ!今、フィリップは公私ともに強烈なストレスを抱えている。
ここ数ヶ月で10キロも痩せた。気分転換も含めたアメリカ行きのようだ。


やや酔ってきたフィリップは、物凄い勢いで喋り続けだした。ブルゴ−ニュで良い畑を借りる為の苦労話や、最近、発見したワイン造りに関すること、
フィリップ 『ピノ・ノワ−ルは樽熟をあまり長くやってはいけない。この品種は熟成中の観察・対応が実に重要なんだ。熟成中の対応如何で全く別物になってしまうほどなんだ。今熟成中の2007年は特に繊細に仕上がってきた。本当にブルゴ−ニュらしいピノに出来上がったよ!ピノにはあまり強い太陽は必要ないいんだ。2007年の穏やかな太陽が理想的なんだ。』

気がついたら既に12時を過ぎていた。明日の朝、10時の便でシアトルに向かう。今夜はこの辺にした方がよい。
フィリップ、 ボン・ボアイヤージュ 良い旅を!

しかし、バラタンの人気は凄まじい。12時を過ぎてもまだ人が入ってくる。活気に満ちている。何よりオ−ナ−のピノッシュもラケルも本当に楽しんでやっている。その喜びを我々も感じることができる。
実に心地良いビストロだ。

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