~ 南フランスを代表する自然派ジャン・フランソワ・ニック ~

今、最高に波に乗っているジャンフランソワ


2002年にフラール・ルージュを立ち上げて7年目に入る。年齢的にも経験的にも最高に波に乗っている佳境にいるジャンフランソワ・ニックを訪ねる。繊細な感性を持ちながら果敢に挑戦し続けるジャンフランソワ・ニックだ。良く研いだ日本刀のように繊細で切れ味の良い感性をもった人物だ。鋭い視線の奥に光る意志の強さは大自然を相手に共存を図る男の冷静な観察力が表現されている。

強い精神力と何がってもやり抜く実行力の持ち主

スペインの国境に近いアルベル山麓の荒地を買い取って、自分自身で雑木林を引き抜き開墾した畑が原点だ。
アルベル山の傾斜面一帯は、昔、葡萄園で埋め尽くされていた。近年になると葡萄栽培農家は農作業の難しく厳しい斜面畑を避けて平地に葡萄園を引っ越してしまった。
そのまま何十年も放置されていた荒地を、葡萄園に再開拓したのである。開拓と一言で云ってしまえば簡単なことのように聞こえるが、実際はとんでもない困難を窮めた作業である。葡萄園を開拓した人間でその後に体を壊したり、命まで落としてしまった醸造家を何人も私は知っている。
並大抵の精神力や体力ではできない作業である。そんな過酷な作業をやり抜いた志も眼の奥に読み取れる。尊敬すべき人物である。

若手の育成・まるでジャンフランソワ学校だ

もう一つ尊敬すべきことがある。
南フランスの自然派ワインを育てあげた男である。南仏におけるボジョレのマルセル・ラピエール的存在の人物である。10年前にルシオンにやって来た時は、この地方には自然派らしき醸造元は殆ど存在しなかった。特にセミ・マセラッション・カルボニック方式の自然派は皆無だった。ところが今はこのジャンフランソワ・ニックが育てた若手自然派が竹の子のごとくに増えている。彼の指導力のお陰だ。

若手に惜しみなく醸造方法を伝授しているのである。まるでジャンフランソワ学校と云ってもいいほどである。
若手にとっては尊敬とあこがれの人物といっていい。

彼の自然派醸造の能力は天才的と云っても過言でない。その凄さはエステザルグ農協で働いていた時に身につけた。現存する自然派の造り手は殆どが小規模醸造の造りしか知らない。

ジャンフランソワの凄さは、設備がそれほど整っていない農協の醸造所で、しかも大型タンクで大量の自然派ワインを無事に造り続けてきた実践の中に隠されている。

農協で89年より初めて91年にはSO2の使用を10mgに押さえ、96年にはゼロSO2を成功させた。

恐らく天才といわれるフィリップ・パカレでも農協の設備と大型タンクでの自然派ワイン醸造は困難なことだろう。ここでもジャン・フランソワ・ニックの天才的な実践対応力の凄さを垣間見ることができる。

大型タンクで、清潔度も思うように出来ない条件下で彼なりに工夫している作業に頭が下がる思いだった。

~ 何故このルシオンの地に、オーダメードの自作葡萄園の誕生 ~

南ローヌのエステザルグ農協で醸造長を長年務めていたジャンフランソワには無二の親友である現ラングロールのエリックと描いていた夢があった。二人で醸造元を打ち立てる夢だった。

ところがある時、このアルベル山の麓を訪れた時に、すべてが変わってしまった。

元々、地質学を専攻していたジャンフランソワにとって、この土地の多様性と複雑性を持ち合わせた地質と土壌に出会った時は感動を超える感動だった。本当に体の芯から震えるものがあった。
自分がワインを造るのはここだ!ジャンフランソワは即決した。


ピレネー山脈の隆起と共に浮き上がったロッシュ・メールと呼ばれる太古の昔に海だった数億年前の岩盤が地表近くに現れている。地表には若干のシスト状の瓦礫や石英石、水晶がかった小石、鉄石、花崗岩、そして火山岩が砕けて砂状になった土壌。こんなにも多様で複雑な要素を備えた土地を今で見たことがなかったのである。


しかも、標高300メートル、しかも夜は地中海からの風があり昼夜の寒暖の差が大きく、酸が残り安い。
自分が造りたい理想のワインは、酸を主体にしながらも太陽も感じさせるピュア-なワインだった。そんなワイン造りが可能な条件、微気象を完璧に備えていたのである。ジャンフランソワにとって、これからの人生を賭けるのはここしか考えられなかった。


ローヌに戻って親友、ラングロールのエリックにこの話をした。エリックは残念がったが大賛成してくれた。
エリックにとっては尊敬するお婆さん、お祖父さんの畑のあるタヴェルを離れる訳にはいかなかったのである。


こうして二人は別々にほぼ同時期に独立醸造所を立ち上げた。
ジャンフランソワにとって、畑を開拓しながら土壌を検証し自分が造りたいタイプワインの為に、土壌とそれに最適な品種を植えていった。
まさにオーダーメイドの自作葡萄園なのである。
二人は定期的会っている。2人のワインをブレンドしたワインを共同リリ-スしている。

お互いに尊敬しあう親友、ジャンフランソワとラングロ-ルのエリック

~ 倒産した農協の建物を利用して醸造開始 ~

そんなフラールージュに3度目の訪問だ。最初は7年前、ジャンフランソワが3年間の栽培のあと初醸造の為02年にフラ-・ル-ジュを立ち上げたばかりの頃に訪問したことがある。

初収穫のワインがまだ樽で寝ている時だった。元農協の醸造所だった建物を買い取っての初醸造の年だった。難しい顔をしていたのを覚えている。収穫量が極端に少なかった年だった。まだ、彼自身も葡萄達も土壌も馴染んでいなかったのである。土壌、栽培方法、醸造、などが違和感なく馴染むのに最低でも5年はかかる。そして安定して馴染むには10年はかかるといわれている。

当時は、まだ今のような風雪に耐えた精悍な顔つきではなかった。まだ脱サラ醸造家という雰囲気だった。

~ 初回訪問から7年の歳月が流れ、自然との共生の世界が出来あがる ~


7年の歳月が流れジャンフランソワが狙っていた理想のワインがやっとできあがってきたところだ。爽やかさを感じさせる酸を持ちながら、南仏の太陽をあびながら熟したピュアーな果実味が心地よい、なんて素晴らしいバランスなのだろうか!素晴らしい!マニフィックだ!ジャンフランソワのここまでの“道のり”に大拍手と感謝だ。

何事も時間がかかるものだ。特にワイン造りは、人間だけではない。人間が関われない自然を相手にするからなおさら時間がかかる。自然派は人間の妙なテクニックを使って、人間の都合のいいように自然を曲げるような事はしない。
開拓した土壌に微生物達が調和とれて住みつくまでも時間がかかる。雑木林を抜いて土壌がかき混ぜられて、葡萄園にした後の地中の湿気や温度、日当たり具合などが雑木林時代とは全く違うのである。それまで住んでいた微生物と葡萄園に再生したあとでは、生息する微生物群の種類が違ってくる。そこに住む微生物のお陰で有機物が発酵してその場所独特の土壌バランスができあがる。その微生物の一部がワインを造ってくれる自然酵母なのである。また、昆虫や草花や野兎やイノシシや鳥達などすべてが関わりあって調和がとれてくるのである。

すべてが違和感なく練れてくる、すべてが馴染んでくる。勿論、人間も含めてそこに馴染んでくる。ワイン造りには最も大切なことだ。自然との共生の世界である。今、フラールージュはジャンフランソワと土壌と風土、葡萄木の調和が10年たってやっと安定してきたところだ。

~ 醸造家は自分のワインを売る人との交流も大切な仕事の一部だ ~


今年は4月と6月の2回訪問をした。6月は日本からはオザミ・デ・ヴァンの丸山氏をはじめに酒販店経営者、レストラン業者、大阪の南海酒販の大型空手家営業マンの吉田さん、そしてパッション・ド・ヴァンの竹下、など総勢8名での訪問だ。
ワインは自然と関係のみならず、造る人から売る人達とも深く関わりあっている。つまりそのワインが最終消費者に飲まれるまでに関わるすべての人達とも関わり合っているのである。
自分が造ったワインを売る人達がどういう風に思っているのか?どんな気持ちでワイン販売しているのか?を醸造家が知ることは土壌造りと同じくらい大切なことだと私は思う。勿論、販売する方も、どんな人がどんな状況の中で、何を考えてどんな風に造っているのかを知ることは実に大切なことだ。
今日は、彼のワインを現場で消費者に勧めてくれる人達との共生調和を図る日だ。
販売者にとても、実際に葡萄園を自分の足で歩いて見ないと解からないことが山ほどある。お客さんにどのように説明して、どのように勧めたらよいか?を模索しながらの訪問は、貴重な無形財産となる。

ワインの重要な部分はすべて畑にあり、簡素な設備

フラ-ル-ジュの蔵は実に簡素な設備しかない。
重要なことはすべて畑にあり、と云わんばかりの簡素ぶりだ。蔵で重要なのはトロンコニック型の発酵木樽である。底辺が広くなっている。セミ・マセラッションカルボニック発酵の自然派醸造には絶対に必要な設備である。アル発酵時から木樽から僅かに出入りする空気にワインが馴染んでいく。

発酵中も“アル発酵の心臓部”と呼ばれる塊が樽内にできて、温度が上がり過ぎてくると、この部分が上部に移動して外気に触れて温度が下がり、また中心部に戻るという自然な温度調整をしてくれるのがこのトロンコニック型木樽の特徴だ。

~ 08年テ-スティング ~

10年の自然栽培の結果をジャンフランソワは語る
『このルシオンの乾燥度は僕がいたローヌ地方とは比べ物にならない程過酷なものだ。自然なビオ栽培をやって10年がたちやっと根っこが地中深く入りこんだのを感じる。地上が乾燥していても、乾燥に耐えられるようになってきた。つまり地中深いところの水分を吸収できるようになったんだ。だから、葡萄が良く熟しても酸がきっちり残るようになった。 』


LE SOIF DU MAL BLANC ソワフ・ド・マル 白
マカブ 60年の古木 – マカブは収穫直前に急激に糖度が上がり過ぎてしまう
グルナッシュ・ブラン30年 – 注意に注意を重ねないと酸を残せない。
ステンレス・タンク発酵
2008年は夏も太陽が少なめでゆっくり熟してマカブも酸が残って、軽めに仕上がった。
ルシオンのワインとは思えないフレッシュな果実味が心地よいワインだ。


LE SOIF DU MAL ROUGE ソワフ・ド・マル 赤
シラ- 70%
グルナッシュ 30%
最初の頃はシラ-100%で造っていた。グラップ・アンティエ-ル(除梗なしの葡萄を丸ごと)発酵槽にいれる。発酵はコンクリ-ト槽でやって、熟成を樽とトロンコニック樽
内で行った。早めの8月に収穫してフレッシュでグイグイ飲める果実味の軽快なワイン。


GLANEUSES グラヌ-ズ 赤
グルナッシュ70%  シラ-30%    17HL/H
グラヌ-ズとは、収穫が終わったあと、数週間後にもう一度、葡萄園に行って穫り忘れの葡萄を収穫すること。2002年の初収穫の年は、天候も悪く葡萄が極端に少なかった上に
猪や鳥にも食べられて、収穫前だと言うのに葡萄が本当に少ししかなかった。まるで
2度目の収穫のようだったのでグラヌ-ズと名づけた。まさに、果実味に太陽を感じつつ、熟し過ぎること無く、メネラルと酸がビシと閉めているワイン。


GLANEURS グラヌ-ル 赤
グルナッシュ100% 45年 古木のみ
ジャンフランソワは永年醸造した南ロ-ヌを彷彿させるワインだ。20HL/Hと収穫量も少なく、濃縮感もあり、ミネラルと酸がきっちり閉めている。理想のバランスだ。
オザミの丸山氏
『深みもあって、重すぎず、上品で、フレッシュまるで89,90のシャト-ライヤスだ』


FRIDA フリ-ダ 赤
カリニャン70% 80年~100年の古木のみ
グルナッシュ30%
除梗して、低温で発酵、3週間の長いカモシ、セミ・Mカルボニックのスペシャリストが敢えて除梗をするには理由がある。自然派のセミMカルボニックが最近良く批判される。みな同じ風味だ、と。それに反発するかのように除梗する自然派が出てきた。
タンニンも色も濃縮感あり、でも細かい粒子のタンニンでフレッシュ感もあり。

最後は熟成中のシェリ-酒

試飲の最後は5年間、ウイラ-ジ(つぎ足し)もしないでソーラ-システムで熟成中のまるでシェリ-酒だ。
ムスカ・プティ・グレン品種
マカブ

あまりにも量が少ないので毎年少しずつ足してソ-ラ-システムで熟成させている。まだ、販売していない。
アペリテキフ代わりに頂いた。

~ お昼はモンテスキュ村にあるジャンフランソワの家で ~

 

モンテスキュウ村の中心部に彼の家がある。

見たこともない巨大なサボテンが繁殖しており、

巨大なココナツの木が如何にも南仏らしい、いや南米を思わせる雰囲気を持った庭のある家だ。

その庭で奥さんの手料理、昼食を御馳走になりながら、馴染むべく日仏の人間交流だ。

南仏文化は一緒に食べる事

人間関係は食べながら作られる。

テ-ブルでは本音や人間性がでる。

時々意外な側面を見せてくれる。

ラングロ-ルとフラ-ル-ジュの共同リリ-スワイン

50%、50%で毎年マグナムのみの特別キュ-ヴェを飲む。


ラングロ-ルの良さとフラ-ル-ジュの良さが倍増した
フィネスなワイン。

感謝!有難う!MERCI !

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