ブルゴーニュ・テロワールの真髄への道

2012年はフィリップにとって22年目のブルゴーニュでの収穫となった。プリューレ・ロック時代は、現ロマネ・コンチのオーナーのアンリー・フレデリック・ロックに乞われて10年間、プリューレ・ロック醸造所のブルゴーニュきっての名醸畑を栽培・醸造を手掛けてきた。その姿は正にブルゴーニュ土壌に魅せられた研究者としてのフィリップ・パカレだった。 若き頃、物理学を勉強していたフィリップをジュル・ショヴェ博士に紹介したのはマルセル・ラピエールだった。以後3年間、『自生酵母とワインにおけるその影響について』を ショヴェ博士と共同研究する幸運に恵まれた。 アンリー・フレデリック・ロックはその研究生としてのフィリップをみいだして、プリューレ・ロック醸造蔵のオノローグ・醸造長としてフィイリップ・パカレを誘った。当時、アンリー・フレデリック・ロックはまだお兄さんが生存していてロマネ・コンチの後継者になることは考えられなかった。だから、自分独自の蔵を立ち上げる必要性があった。新蔵を立ち上げるに当たって、アンリ・フレデリックは本物のブルゴーニュ・ワインを造りたかった。当時すでにマルセル・ラピエールの自然派ワインが教養あるプロの間では話題になっていた。マルセル・ラピエールからフィリップを紹介された。91年から10年間プリューレ・ロック醸造元の基盤を造り上げた。その間に、アンリ・フレデリックはロマネ・コンチの後継者になるという変化が生じた。2001年、フィリップは独立を決意。 ピノ・ノワールとは?ブルゴーニュの土壌とは?大冒険が続く! フィリップは、ジュル・ショヴェ博士と共同研究した理論を、プリューレ・ロックでのブルゴーニュの有数の名醸畑で10年間に渡って栽培・醸造する実践・実験するという幸運に恵まれた。さらに、突き詰めて自由にピノ・ノワールとブルゴーニュ・テロワール(土壌)の関係を追及し究めたかった。 冷静にものごとを判断して実証していく研究者としてのフィリップの大冒険が待っていた。 フィリップは畑を持っていないことを喜んだ。一つのドメーヌが所有する畑では研究対象が限定されてしまう。未知のブルゴーニュの畑を自由にやってみたかった。 ワイン造りでフィリップが最も重要視しているのは、葡萄木の素性だ。“Bon plant”ボン・プランである事が必要条件だ。フィリップは云う『クローンのピノ・ノワールではどんな有名畑の土壌でもダメなんだ。』動物の血統証のような存在なのだろう。セレクション・マサル方式で植えかえられてきた本物のピノ・ノワール木が必要なのだ。フィリップはテロワール・ワインを次のよう公式化している。あくまで葡萄・品種は分母に位置している。              土壌 × 気候 × 人間  テロワール・ワイン = ――――――――――――――                          葡萄・品種 フィリップは、ブルゴーニュのまだ醸造したことがない畑、村、区画で、Bon Plantボン・プランのピノ品種と土壌の関係を試したかった。 Bon plantボン・プランとはセレクション・マサル方式で植えかえられてきた本物ピノ・ノワールのこと。マサル方式のピノ・ノワールは小粒の葡萄で生産量が少なく病気に対する抵抗性が強く、寿命が長い。 ブルゴーニュの多くの名醸畑は、残念ながらクローン方式のピノ・ノワールが多い。近年、経済的理由から用いられている。苗木クローンは葡萄が大粒で、生産量が多いからである。しかし病気への抵抗力が弱く、寿命が短い。最近では30年が寿命のビノ・ノワールが多い。 2012年は独立して12回目の収穫となる。 今日、9月28日はニュイ・サン・ジョルジュ畑の収穫だった。フィリップの大冒険を実現するには葡萄栽培家との円満で濃密な関係が必要だ。ブルゴーニュには葡萄栽培しかやらない栽培専門農家がいる。醸造は一切やらない。すべての労働時間を畑に費やすことができる。 普通、醸造元は自分の畑を所有して、栽培・収穫、醸造、熟成、瓶詰、を独自でやっている。しかも、販売管理も自分でやっているので、営業に使う時間も莫大だ。当然、畑に出る時間は少なくなる。 今年の様な、湿気が多く病気が大発生した難しい年は葡萄木の状態、土壌の湿気、天気予報を見ながらジャスト・ピン・ポイントで対応しなければならなかった。2012年は、やるべき畑仕事が1日遅れただけでベト病が大発生して大被害に繋がる年だった。畑を借りているフィリップは所有者(農業専門家)との契約で畑仕事を指定できるシステムになっている。やるべき日時にやるべき農作業ができたニュイ・サンジョルジュ畑は、難しかった12年も素晴らしい葡萄が収穫できた。 フランス社会の変化がブルゴーニュ・ワインへも影響を与えている。 フィリップの大冒険は続く。9月29日はポマール畑の収穫。ポマール畑の所有者は農家ではない。だから栽培も自分達で管理しなければならない。今、フランス社会は人件費と社会保障費の高騰、労働時間が週35時間となってから、職人業、飲食業、農業関連の企業が行き詰っている。 月曜日から金曜の午前中まで、つまりほぼ週3日制。しかもアルバイト雇用が許されていない。すべて正式な労働契約をしなければならない。(勿論、収穫期など農繁期は短期季節労働者の雇用を許されている。)零細農企業では、人は雇えないし、やるべき仕事ができない。 そこで、今ブルゴーニュでは新型の農作業専門会社が出現している。例えば、散布専門業者、耕作専門業者、など農作業の一部を請負う会社である。 中にはいい加減な会社も存在するが、農作業のプロ中のプロを集めた会社がある。フィリップも何社か試して、やっと良いプロ会社を見つけた。大きな利点は、耕作の日時、やり方をすべて指定できることだ。勿論、フィリップの右腕のジョワンが立ち会い一緒に農作業をする。 フィリップは、農作業員の雇用で近年悩んでいた。それほどフランス社会のシステムが、職人や芸術的要素がある業種を圧迫している。 佳きフランス文化を消滅しかねない問題までになっている。 ここポマールの畑は、今年からそのプロ集団に任せたお陰で、この難しい12年も小粒でフェノリック熟度の高いピノ・ノワールを収穫することができた。 ピノ、ブルゴーニュの真髄を究める大冒険は続く プリューレ・ロック時代は人の問題とか会社経営の問題などの心配する必要がなかった。ただ純粋に栽培・醸造のことに熱中していればよかった。 ブルゴーニュという土壌性を理解するには、ここに住み、生活する人達の文化そのものに触れずには不可能だ。特に、世界中から人とお金と名声が集中して人間のあらゆる感情が渦巻いている土壌だ。これらを抜きにしてブルゴーニュの真髄は理解できないだろ。 色んな問題を解決しながら人間的にも深みが出てきたフィリップ。人間が変わればワインも変わる。最近、ますます深みが出てきた。 フィリップにとって22回目のブルゴーニュの冒険

フィリップには心強い右腕のジャワンがいる。収穫時期の葡萄園における鬼軍曹。 収穫の仕事は体力的には非常にキツイ仕事だ。だから、疲れてくると注意力がなくなってくる瞬間がある。無意識に傷んだ葡萄を収穫してしまう。そんな時、この鬼軍曹がやって来て、一喝!気合を入れる。 収穫は9月24日から約1週間続いた。オー・コート・ニュイ地区にある民宿所を借り切って約30人が寝泊りの合宿生活をする。勿論、専門の料理シェフも雇っている。今年は、イタリア、コロンビア、スペイン、オランダ、アメリカなど国際色豊かな収穫メンバーだった。 晴天日の昼は葡萄園で昼食をとる事が多い。移動時間が短縮できる。 フィリップの冒険は家族ぐるみ フィリップのお母さんも昼食の手伝いにやって来ていた。 フィリップのお母さんはマルセル・ラピエールの妹さんだ。 フィリップは醸造元設立の初期の頃は醸造所、熟成庫もすべてヤドカリで行った。この状態で、繊細なピノ・ノワール醸造は難しかった。思い切って投資してボーヌ駅付近に元ネゴシアンの理想的な建物を購入。土日も顧みず、あまりにもの冒険・仕事への集中が過ぎて家族に迷惑をかけた時期があった。今は、家族と共に歩んでいる。長女も奥さんも収穫に参加して時を共有している。 フィリップにとって発酵槽はフラスコのようなもの、一年に一回しかできない醸造が開始

満足のいく健全な葡萄は偶然には得られない! 次々と各畑から収穫された葡萄が運びこまれてくる。フィリップは葡萄園と醸造所を行き来しながら陣頭指揮をとっている。フィリップは到着した葡萄をみて満足している。 『2012年は難しい年だが、良く観察してやることをキッチやれば問題ない年だった。冬にあまり雨が降らなかったので、土壌の地下水が乾燥していた。春、夏と天気は曇り空が多かったが、実際のところは、あまり雨は降っていなかった。空気中の湿気で病気が大発生した。雨が降る直前に畑への対処をきっちりやっておけば病気もそれ程広がらなかった。雨が降ると1週間も畑に入れなく、畑仕事がドンドン遅れて結果的に病気が大発生した。12年は天気予報を見ながらの指揮で予断を許さなかった。だから今年、夏バカンスはとれなかった。収穫量の少ないのは冬と春先の大寒波によるもの。受け入れるのみ。』 人間は横にいて、発酵しやすいように導き手助けするだけ。 勿論、発酵槽への葡萄の搬入はポンプを使わず人力で上から重力で落し入れる。この葡萄にはそれぞれの畑の自生酵母が付着している。今年の湿気、太陽熱など12年のインフォメーションを一杯満載している葡萄達だ。葡萄果汁、果肉にはポマールの元海底だったころの石灰質岩盤に含まれているミネラリーなインフォメーションもたっぷり含まれている。自然酵母が働き安い状況をつくりだす。『自然酵母が発酵する事で、畑独自の香りや味や感動の情報を活力増強してワインに現れる。』 それらの独自なインフォメーションをワインという液体の中にポマールのテロワールとして写しだす事が出来るのは、ポマールで育った自生酵母達なのだ。ジュルショーヴェ博士との共同研究で判明した約30種類の酵母が、今、グツグツと泡を出しながらトランスフォーメンションの仕事をしている。彼らのお陰で12年の宇宙からの光エネルギーやメッセージ、何億年前の土壌ミネラルからのメッセージをワインの中に写し出される。我々人間に喜びと勇気をもたらしてくれるために! 『畑独自の香りや味や感動の情報が現れる発酵は、エネルギーそのもの! これは、動きの情報である。ワインは、振動の液体である。多くのエネルギー情報を我々に与えてくれる。また、細胞(DNA)を変動、変換させる力をも持っている』フィリップ・パカレ