今フランスでも話題になっている醸造元 MONT DE MARIE – モンド・マリー訪問。畑仕事の邪魔にならないように夕方に訪問をした。もう日焼けした顔、畑仕事で鍛えた逞しい体、満面の笑顔で畑から戻ってきた。
ティエリーは自然派ワインの大愛好家だった。しかし近年、価格が高くなってきていることに危惧していた。『やはりワインは誰でも買える価格であってほしい。』
ティエリーは高等ビジネス学校を出てインタナショナル・ビジネスをコンピューター・システム使って管理・アドバイスする仕事をパリの一流企業で働いていた。
『自分でワインを造ろう!』
ティエリーはグイグイ飲めてしまうスタイルのワインが好きだった。目指すワインもそんなワインだ。
100年程前、フランス人が年間80L以上飲んでいた時があった。その頃のワインはアルコール度数が10~11度ぐらいしかなかった。ワインが13度というのが慣例になったのはつい最近のことだ。昔、ラングドック地方はアルコール度数が10~11度というワインを大量に造っていたのである。こんなワインを北フランス、北ヨーロッパにドンドン出荷していたのである。
アラモン品種の100歳級の古木
昔はまだ機械もなく、勿論コンピューターもない時代の人々の労働はすべて体を使って働く肉体労働の時代だった。労働者達が仕事をしながら、また終わってからゴクンゴクンと水代わりに飲めるワインが必要だった。
当時のワイン造りは、まだ農薬も化学肥料もない時代の話である。勿論、人工酵母もない時代の話である。つまり今風に云えば自然派ワインだったのである。
アルコール度も11度前後と低く軽くて飲みやすいビュバビリテー最高のワインが多かった。酸が残っているし果実味の乗った実にバランスのよいワインだったようである。その頃のラングドックの品種はアラモン、サンソー、カリニャンそしてアリカントなどが主力品種だった。シラー、グルナッシュ品種などは少なかったのである。
歴史は繰り返す。
そして今、軽くて、グイグイ飲める飲みやすいワイン、つまりビュバビリテーの高いワインの需要が増大している。昔は肉体労働で疲れた体を癒す為にグイグイ飲んだ。今もそれに似ている。ティエリーはコンピュター技師でもあり頭脳を使う仕事をしている人だった。でも昔の肉体労働に匹敵するほどハードな労働であった。そんな体を癒してくれるのは、グランヴァンのように濃淳豊満なワインのスタイルではなかった。
軽めでグイグイ飲めてしまう美味しいワインだった。だから自然派ワインの大ファンだったのである。
自分でワインを造ろうと決意したのは、“自分のようにパリのオフィスで頭脳を使って働く人達も、現在のスピードの速い時代はまさにハードな肉体労働そのものだった。軽快でグイグイ飲めて優しく体に沁み渡っていくようなワインが必要だった。しかも価格も比較的安いワインを必要としている。”といつも感じていたからである。
ワインは誰でもが手に入るような価格でなければと思っていた。
ティエリーは調べた。まず安く造るには土地代の安いラングドックだろう。探していた時にニームの近くのソヴィニャルグ村にたどり着いた。アラモン、サンソー、カリニャンの古木が沢山残っている地域だった。ソヴィニャルグ村はローヌ地方とラングドック地方の中間に位置していて、忘れらている葡萄栽培地区でもあった。AOCも存在しないまるでブラックホールのような場所だった。栽培されている品種もその昔、ラングドックが全盛期だったアラモン、サンソー、カリニャンなどの古木が今でも栽培されていた。流行から取り残されていた地区だったのである。
ティエリーはこのアラモン、サンソー、カリニャンなどの古木に注目した。
まだ、誰も追求しなかった境地への“気づき”と“挑戦”
アラモン、サンソー、カリニャン品種
まさにこの三つの品種が昔のラングドックワインを支えていた品種だった。アラモンもサンソーも大粒で果肉に水分を多く含んでいる葡萄品種だ。どんなに熟しても濃縮するまでにはいかない。アルコール度数も上がることがない。 それでいて果実味はしっかりある。食用として食べても水分があるのでバランスのよい味わいのある品種だ。
濃いワインが高級ワインだという近年の価値観では受け入れられない品種だった。フランス中の醸造家が濃いワインを目標に造り出した近年は、ラングドックからも姿をけした品種だった。グルナッシュ、シラーなどに植え代えられていった。さらに近年ではカベルネ系、メルローなどのボルドー品種に植え代えられてほぼ完璧に姿を消した。
完璧に姿を消したかに思われていたが、ラングドックでもマイナーな地区ではそのまま慣習的に栽培されていたのである。これがフランス文化の奥深いところである。すべてが一色に染まってしまう事がない文化である。
ラングドックでも表舞台の地区が存在している。つまり濃いワインが全盛期だった90年代に広大なラングドックの中心である、コトー・ド・ラングドック、ミネルヴォワ、コルビエールなど表舞台からこれらの品種は姿を消した。
しかし、ラングドックでも北風をもろに受けて、葡萄が熟さない涼しいマイナーな地区がいくつか存在している。何故マイナーかと云うと、濃いワインを造るのに適さないからである。最初から濃いワインを造る事を諦めているのである。だからアペラッションも何もない。そんな地区にこの“お宝”の品種アラモン、サンソー、カリニャンが残っ ているのである。
ティエリーとスヴィニャルグ村と絶滅しかけた品種(アラモン・サンソー)が新たな仕掛け
ティエリーが見つけたSOUVIGNARGUEスヴィニャルグ村にはアラモン、サンソー、カリニャンの世界遺産級の古木が残っていた。
村の中心から高台に緩やかな斜面を登っていくと北斜面にアラモン、サンソーの古木が元気に生息している。
『俺たちの時代が再びやって来た!』と云わんばかりだ。
ティエリーは最初にこの畑を見て一目惚れした。『すべてはここだ!この畑が俺を待っていてくれた。』
ティエリーは偶然に安く美味しい自然なワインができることは思っていなかった。今は畑、品種、土壌、ミクロクリマ、不動の分部は手に入った。しかし、安く するには仕事の効率化を徹底的にやらなければ“安い”ワインはできない。自然栽培、ビオをやることは必要不可欠だった。農薬や化学肥料での効率化は頭から考えていない。
自分の労働時間を最大限に畑の農作業に集中することしかなかった。ティエリーは徹底調査して決意した。
普通の醸造家は訪問者などお客の接待にかなりの時間を費やしている。意外と知られてない事実だ。有名になればなるほど畑にいけない程の訪問客がやって来る。もう一つは、試飲会やサロンなどへの参加の為にもかなりの時間を費やしている。
テイエリーはこの二つを徹底的に省くことにした。
顧客も大口の取引しかしない方向をめざした。小口の顧客対応をやっていると時間ばかりとられることなる。
シールクスのみの一回だけに参加。後の残り時間はすべて畑に集中することにした。
畑を購入して10年の歳月が流れた。土壌がイキイキしている
2004年から始めて10年の歳月が過ぎようとしている。ティエリーと志を同じくする仲間も同じ村に集まってきた。
畑もやっと自分でも納得のいく剪定や畑仕事ができるようになった。自分の畑のこと,各区画の土壌の能力の事が数倍も良く理解できるようになった。土壌もイキイキして生きているのを感じる。
砂質マルヌ土壌の特殊ミネラル感
マルヌと呼ばれる泥灰岩質土壌の偉大なエネルギーとワインに与えるミネラル感の特著もよく分かってきた。
先日、ラングドックでミッシュラン2つ星のジャルダン・デ・サンスのソムリエがやって来た。
モン・ド・マリーのワインの塩っぽいミネラル感と繊細さに驚いていたよう。
ここの地下にはこの砂質マルヌ岩盤が敷き詰められている。河を伝って流れてきた小さな小石と元海だった頃の砂が混ざって長い年月をかけて固まった岩盤である。
地層の上部・表面はこの岩盤が風化してこなれた 砂状になっている。根っ子はマルヌ岩盤を突き破って岩の中に入り込んでいる。
それがワインにミネラル感を与えてくれる。繊細な透明感、フレッシュ感、潮っぽさとしてワインの中に表現される。
10年目の13年ミレジムを利く。
ティエリーの13年の新しい試作は白ワインの30%分のユニ・ブラン品種を樽発酵、樽熟に挑戦したことでした。
ユニ・ブランの第一アロマの初期の頃は、決して上品な心地よいものではない。樽発酵することで粗っぽい風味がなく最初からこなれた心地よい上品な風味になっていた。最初から樽材の壁から入る僅かな酸素と触れ合っていることがいいのだろう。残りの70%はタンク発酵、タンク熟成をやっている。タンク発酵のものとも比較したが、やはり樽発酵の方が洗練された心地よい香りが最初から表現されている。3年樽を使用。
ANATHEME ROSE アナテム・ロゼ13
アラモン品種100%のロゼワイン。アラモンを手摘みで収穫してグラップ・アンティエール(除梗なし)葡萄房を丸ごと発酵槽にいれて、一晩そのまま置いておき、翌朝、タンクの下から自然に流れ出てきたジュースを,自然酵母で発酵したもの。セニエ方式に近い。アラモンの葡萄はもともと皮の色が薄い赤色。それをピジャージも何もしないで流れでた ジュースなので、本当に淡いロゼ色で美しい。
葡萄ジュースのような風味。優しい口当たりに果実味と旨味そしてミネラル感からくる 潮っぽさが爽やかさを演出している。アルコール度数も11.7程で軽くてスイスイ 入ってしまうあぶないロゼワイン。
ANATHEME ROUGE アナテム 赤13
アラモン40%、サンソー25%、カリニャン20%、グルナッシュ15%という100年前のラングドック・ワインの品種構成に近い。
ティエリーが10年間、盆栽を育てるように丹精に育てたアラモン、サンソー、カリニャンの古木、13年は素晴らしい完璧な品質の葡萄を収穫することができた。手摘みの葡萄をグラップ・アンティエール(除梗なし)葡萄房を丸ごと発酵槽にいれて、セミ・マセラッション・カルボ醸造。勿論、自然酵母のみ。ピジャージやルモンタージなど一切の人的介入はしない。13年は完璧な葡萄だったので、18日間のマセラッションをやることが可能だった。アル度数が12度弱と低いのに上品なタンニン、果実味、旨味潮っぽいミネラル感と透明感が素晴らしい。
ティエリー:『過去10年間で13年は自分でも驚くほどの品質のものができた。ここまでやっと辿り着いた、という喜びがある。』
VIEILLE GARDE ヴィエイユ・ガルド赤12
13年はキューヴより抜き出して試飲。 古木のグルナッシュ80%、カリニャン20%という品種構成で、軽い赤という狙いではない。確りしたワインの中にも軽やかさを感じるワインをめざしているワイン造り。
グラップ・アンティエール(除梗なし)葡萄房を丸ごと発酵槽にいれて、セミ・マセラッション・カルボ醸造。何もしないノン・アンターバンション・ニズム。
13年はティエリーが最高の年だ、と言い切るに相応しい高品質のワインだ。
アルコール度数13度、ゆったりとしたキメ細かいタンニン、上品に濃縮した果実味、濃縮感の中にも酸がキッチリのっているのが流石にティエリーだ。まさにグラン・ヴァンの風格を備えたワインといってよい。