3日前、フィリップ・パカレから電話が入った。
パカレ『今度の木曜日の1月11日にパリに出るけど、一緒に食べようか?』
伊藤『いいね、どこで食べる?』 フィリップ『ヴァラタンに行こう』
という訳で昨日は、パリで最高に美味しくて、最高に居心地が良い自然派ワインビストロのヴァラタンに行っきた。兎も角、連日連夜の満員お礼のビストロだ。木曜日だというのに満員だった。
奥さんが料理を作って、主人がサービスする。勿論ワインはすべて自然派のテロワ−ルワインだ。
私が行くとワインはすべてお任せで、ブラインドで出される。ついつい飲みすぎてしまう。自然派のワインリストもすごい。奥さんの料理も3星並だ。特に魚料理の新鮮度と火入れ具合が絶妙だ。魚にうるさい日本人も唸るほどである。
私はやや早く着いた。入ると顔馴染みの主人(彼もフィリップ)が、本日のメニュ−を黒板にチョ−クで書いていた。
この店のメニュ−はこの一枚の黒板だけだ。客が来る度にこの黒板をそのテ−ブルまで移動する。
チョット、早く着きすぎたかな。主人のフィリップとはワイン見本市でよく見かける間柄である。自然派ワイン同業者というか、同僚的というか、仲間のような存在だ。ニコッと笑いながらロワ−ルの微発泡ワイン06を出してきた。『ボンナネ!新年おめでとう!』
ルネ・モスの白だった。美味しい!と唸りたくなるほどだ。シュナン・ブランの柔らかな微発泡が爽やかに広がる。カンタ−前のテ−ブル席を用意してくれていた。
元気な男が入ってきた。自然派ワイン同僚のマークシバ−だった。彼はパリ一番のワイン専門店カーヴ・オジェをやっている。また、ラヴィ−ニャの仕入にも関わっている男だ。パリの自然派業界では外せない人物である。面白い躍動感ある人間だ。しかし、やり手と同時に相当クセ、アクがあるので人から嫌われている部分もある。ルネ・モスのペッティアンを手に持って私のテ−ブルに座った。
伊藤『ボンナネ!』
マーク『乾杯!どうだい商売の方は?』流石商売人だ、日本人的な挨拶の仕方だ。
伊藤『2006年はマアマアだったよ』

マ−ク『俺の方は、うなぎ登りだよ!』と言いながらジェスチャ−を大げさに手を上に伸ばした。
マ−ク『ロシア人と中国人が、グランクリュワインを買いあさっている。しかも特級ものお高いものばかりだ。オファ-すればするだけ買ってしまう。テリ−ブルだよ(すさましいよ)。』
伊藤『カーヴ・オジェでは、自然派ワインとグランクリュとどのくらいの比率なの?』
マ−ク『店の中を占める量は自然派が圧倒的に多いけど、金額はグランクリュの方が多い。』
こんな会話をしているところへフィリップ・パカレが着いた。
マ−クはしばらくは一緒にアペリティフを飲んで自分の席にも戻った。
伊藤『ボンナネ!チョット太ったんでは?』
パカレ『ああ、大分太ったよ。最近ストレスが多くてね、僕はストレスがあると太るタイプなんだ。殆んど食べてないんだよ、でもストレスが体を膨らませる。』
伊藤『珍しいじゃないか?君の口からストレスの話は初めてだ。』
パカレ『ああ、実はね、僕は造っているシャブリがAOCを落とされかかっているんだ。その理由が“ムルソ−に似ているから”と書いてある。あの連中頭と味覚がマヒしているんじゃないか!』
ここで読者には説明が必要になる。
今、自然派ワインを造る醸造元は、それぞれの村で嫉妬からくる感情で邪魔されている、現状がある。何の特徴もないワインを造っている醸造元の方が圧倒的に多い、ブルゴ−ニュでは2%しか自然派がいない。しかも、その自然派ワインが良く人気があって売れているのを嫉妬しているのである、自分達のワインはあまり売れていない。面白くないのだろう。

AOCを名乗るのに、各村のAOC協会のテースティング試験に通らなければならない。
そのテ−スティングのメンバ−が酷い。農協系メンバ−とか、地元の有力者系のメンバ−ばかりで構成されている。テ−スティング能力も酷く低い上に、自分達が造っているワインが味覚の基本になっているから、タイプの違うワインがあると反対する訳です。しかも嫉妬心も入っている。
公正であるはずが全く公正でないのが現状です。この試験は3回挑戦できる。3回とも落とされると、即、蒸留所へもっていかなければならない。つまりワインとしては売れなくなってしまうのです。しかし、例外的に補糖をしてないワインの場合は、テ−ブル・ワインとして販売できる。
自然派ワインの場合は補糖をしてないので、テ−ブル・ワインとして販売できる訳です。
パカレのシャブリは2回目を落とされた。3回目も落とされると、ヴァン・ド・タ−ブルで売らなければならない。本当に怪しからん人間達だ。自分達は農薬、化学肥料、補糖、人工酵母と
化学物質を使って、土壌とは全く掛け離れた工業的ワインを造っているくせに。
パカレ達の様に土壌を生かす為、3倍もの労力を必要とする自然栽培をして、自然酵母のみで本来の其処の土地、土壌の風味を出しているワインを造っているワインを、嫉妬心で落すゴロツキ連中は許せない存在である。残念ながら、このような事は現在フランス中に起きている。
この落とされたワインを救わなければ、本物ワインがフランスから消えてしまう。
これらを黒船として、外部から応援する為に、このクラブ・パッション・デュ・ヴァンを造りました。例え、AOCを落とされても、売れる状況を我々が造ってやれば、彼らも自信を持って本物ワインを造り続けてくれる。本来のフランスワインの風味を残さなければならない。
本当に土壌に根ざした風味を備え、まず文句なしに美味しく、体にも優しく、地球環境にも良い
こんなワインを発展させたい。
本当にこの問題は、彼らにとっては死活問題なのである。日本のインポ−タ−さん、酒屋さん、
ソムリエさん、ワイン愛好家の皆さんに、こんな現状をタイムリ−に知ってほしかった。
世の中、本物が評価される時代に戻さなければ!
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ストレスが溜まっているパカレはグイグイ飲みはじめた。
2本目はピエ−ル・オヴェルノワのシャルドネ04だった。
3本目にパカレのシャンボ−ル・ミュ−ジニ02
4本目にパカレのジヴリ・シャンベルタンの1級03
5本目 はもう覚えていない。メモしたがその文字が読めないほど酔っていた。
最後はカウンタ−に立って、主人とパカレ、料理の奥さんも含めて飲み会になった。
楽しい、楽しい夕食でした。

会話集

覚えている範囲でランダムに列挙
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パカレ『来週、おじさんのマルセル・ラ・ピエ−ルとフリストフ・パカレが瓶詰めの手伝いに来てくれる。うれしいよ!来週は飲むぞ!』

 彼らはお互いに瓶詰め時期は手伝いにいき協力しあっている。去年のこの時期は私もボ−ヌに居たので、夜は合流してボ−ヌの日本食ビソ−で宴会をした。
クルストフも;マルセル・ラ・ピエ−ルもベロベロに酔っ払っていた。この夜も楽しかった。
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パカレ『アメリカ人は嫌いだ!文化も無いし人種、ワインをラベルで飲む連中だ。金儲けのことしか考えていない、俺は嫌いだ!日本も速くアメリカから独立した方がよい。ドゴ−ルはアメリカを追い出したんだ。』

この時は既にパカレも酔っていた。
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パカレ『俺の爺さんはインドネシアに住んでいたり、日本にも行ったことがあるんだ。1935年ごろの話だ。』
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パカレ『僕の妻はオランダ人で良かったよ。フランスと違って自然のことに凄く敏感なんだ。子供が4人いるけど。子供が病気になっても薬はあまり飲ませない。薬草とかオメオパシで治してしまう。子供の教育もいい。フランスの学校教育は個人主義が強すぎる、お互いに協力して何かをやるということが全くない』

彼の奥さんシャンタルさんは大柄でパカレより大きい。彼女のお兄さんも南フランスでワインを造っている。慎重2メ−トルもある大男だ。レ−モンさんだ。とびっきり優しい男だ。ワインも自然で飛びっきり美味しい。
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フィリップ・パカレは余程溜まっていたのだろう。一人でしゃべり続けた。少しはストレスが吐けたにのではないか。
ああ良く飲んだ!自然派ワインでもここまで飲むと流石に、翌日にチョット残った。
でも頭は決していたくない。

この記事は2007-1-15にITOさんによって投稿されたものです。