10年程前にマコンの葡萄園を車で走っていた。
醸造家の庭に大きな垂直式圧搾機が無造作に放置されていた。

ジャンクロードがずっと探していた型の圧搾機だった。
自分が狙っている繊細なジュースを絞るにはやっぱり重力でゆっくり絞りだす垂直式に限る。
ずっと長い間、探していたものが目の前にあった。
胸が高鳴った。
その醸造元のドアを叩いた。
年配の醸造家らしい人物が出てきた。

『外にある圧搾機、使っていますか?』ジャンクロード
『今年まで使っていたよ。でももう私は引退する。』
『そとに置いてあるということは、もう使わないのですか?』ジャンクロード
『...……..』
『もし、もう使わないのなら譲ってもらえませんか?』ジャンクロード
『あれは先祖からずっと引き継いできたものだよ。それはできない。』

それから機会あるごとに、その醸造家を訪問していたジャンクロード。ある時相手からこんな話があった。
『ジャンクロード、そんなにあの圧搾機が必要なら譲るよ。あの圧搾機がまた活躍できるなら先祖を喜んでくれるだろう。』
勿論、それなりの価格を支払ってゆずってもらった。

これを使いだした年から、ラパリュのワインの液体の繊細度が数段上がった。

液体が上品になった。

下部の石の部分は花崗岩の一枚岩。
こんな圧搾機は他では見たこともない。

これと同じものは世界に一台しかないだろう。

ジャンクロードが絞っている姿は、まるで舞台に上がて演劇をしている役者のようだ。