ダミアン・コクレ10年目の試練

収穫を2カ月後にひかえた7月13日、強烈な雹がモルゴン村を襲った。
モルゴンの北側の標高が高いところが襲われた。
コート・デュ・ピィは斜面だけにもろにうけた。その数日後にもう一回。
ダミアンは、モルゴンきっての銘醸テロワールのこのコート・デュ・ピィの丘に4ヘクタールも畑を持っている。

皆に羨ましがられている。
この時ばかりは、『なんでコート・デュ・ピィが?!』ここに葡萄園があることに、ダミアンはガッカリだった。
あのいつも元気印のダミアンが本当に落胆した。
最高の状態で葡萄が育っていた畑を、雹の直後見た時のショックは、『もうダメだ。今年は収穫をしない!』と皆に云った。

ところが、その後の異例な晴天続きと乾燥が状況を変えてくれた。
普通、雹でやられた後は、傷ついた箇所から葡萄が腐って全滅してしまうのが通例。
今年は乾燥して全く腐りが存在しなかった。
つまり、雹でやられた箇所、粒が乾し葡萄化して酸と共に濃縮。
やられなかった葡萄粒はそのまま、正常に熟成した。
葡萄木たちは、生命を振り絞って子供を残そうと葡萄実を守り育ててくれた。

今日はそんな葡萄を収穫にやって来た。親友とフィアンセが手伝いに来てくれた。
あまりにも酷くやられた葡萄、粒を選別して切り落とす作業が大変だった。

自分の責任でもなく自分の力ではどうにもできないことが、人生にはあることを悟ったダミアン。
すべてを、心の深いところで、受け容れたダミアンには笑顔しかなかった。流石の若大将。